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処理水放出で自由民主 海外への風評対策強化を

出発地点にすぎぬ規制撤廃

東京電力福島第1原発の処理水について、政府は1月13日の関係閣僚会議で、今春から夏ごろに海洋放出を始めるとの見通しを示した。自民党機関紙「自由民主」(2・7)はこれについて1面で、「ALPS処理水は安全です」の見出しで解説した。特に、インターネット上などで「処理水」と「汚染水」を混同した発信があると指摘。「海洋放出するのは、『汚染水』を特殊な機械で浄化処理し、放射性物質の大部分を取り除いた『処理水』です」と説明し、海に流しても環境や人体に影響を与えないものであることを強調した。

東日本大震災による原発事故の発生から今年3月で12年を迎える。福島第1原発では今も、敷地内に立ち並ぶ1000基以上のタンクの中に処理水がたまり続けており、東京電力によると総容量約137万トンのタンクは今秋にも満杯になる。処理水の放出は福島第1原発の廃炉を進めるに当たって喫緊の課題でもあるが、福島県漁業協同組合連合会をはじめ漁業関係者らは反対の立場を貫いている。背景には風評被害への強い懸念がある。

海洋放出とそれに伴う風評被害に関して、東京大学の関谷直也准教授(災害情報論)が今月8日に発表したアンケート調査の結果が注目を集めている。調査は昨年3月に日本、韓国、中国、台湾、シンガポール、ロシア、ドイツ、フランス、英国、米国の計10カ国・地域の大都市の住民を対象にインターネットを通じて行われたものだ。

読売新聞によると、「海洋放出が行われた場合、福島県産食品の安全性をどう思うか」との質問に対し、「とても危険だ」と「やや危険だ」との回答の合計が日本は36%、他の9カ国・地域はいずれも6割を超えた。特に韓国は93%、中国は87%と、約9割が危険だと考えている。

これは住人だけの傾向ではない。例えば、昨年9月に行われた国際原子力機関(IAEA)の年次総会で、韓国の代表は海洋放出の方針を巡って「汚染水が海に放出される」との懸念を示した。「自由民主」が指摘した「汚染水」と「処理水」の混同である。日本国内ならば、メディア等の協力を得てある程度国民の理解を深め、風評被害を減らすことは可能だが、海外において、そういった対策が効果を上げるのは難しい。

一方で、韓国の政府系研究機関は16日、海洋放出した処理水の拡散に関して韓国周辺海域でのシミュレーション結果を公表した。処理水に含まれる放射性物質「トリチウム」による「大きな影響がない」とするものだ。韓国政府は、海洋放出は「科学的で客観的な根拠」に従って行われるべきだとコメントしてきており、シミュレーション結果が理解の一助になることを期待したいが、韓国メディアによると最大野党「共に民主党」は既に「日本のでたらめなデータと主張を基に導き出された結果で、信頼性を期待できない」と主張しているという。

原発事故後、55の国と地域で福島県産の食品などの輸入規制が行われた。昨年には英国や台湾、一昨年は米国などが規制を撤廃し、その数は減ってきているものの、現在も中韓など13カ国・地域が規制を維持している。規制撤廃が良いニュースであることは間違いないが、それが風評被害の払拭(ふっしょく)を意味するわけではない。前述したアンケート調査は米国の規制撤廃後に行われているが、海洋放出が行われた場合に危険視する人の割合は同国でも74%と高い。規制が撤廃されただけでは、イメージ回復のためのスタート地点に立ったにすぎず、風評被害の払拭には今以上の対策が必要だ。

(亀井 玲那)

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