事業規律強化が課題
最大で20年間保証される高い売電価格目当てに、次々と参入した再エネ発電事業。人口約1万の宮城県丸森町では最大12基の風車建設が予定されるが、ここは2019年の台風19号がもたらした大雨による土砂崩れで12人が犠牲になった場所に近い。「安全性」について不安が顕在化し、さらに「風車による騒音や低周波音の及ぼす健康被害について心配する声が多い」。昨年の事業者説明会では住民の怒号が乱れ飛んだ。事業者側は「『しっかり考えたい』など、『しっかり』という言葉を25回以上繰り返した。しかし、住民の心配事や疑問にはまったくと言っていいほど真摯に答えていな(かった)」。
また宮城県と山形県の県境での風力発電事業計画は御破算となり、事業撤退を余儀なくされた。「その原因となったのが、『宮城県環境影響評価技術審査会』に提出した資料の『ごまかし』」で「景観に与える影響」について「風車や送電線の鉄塔が小さく見える」よう提示したのが分かり、住民に総すかんを食った。一事が万事、資源エネルギー庁の22年報告書では、「再エネの安全面、防災面、景観・環境等への影響、将来の廃棄等に対する地域の懸念が顕在化」とあり、事業規律強化が大きな課題だ。
「地熱発電」はどうか。21年、河野太郎規制改革担当大臣(当時)は「(日本の)潜在的な地熱資源量(ポテンシャル)は世界第3位」としたが、これが大嘘(うそ)。「そもそも地熱のポテンシャルは、商業化できる地熱資源量を表したものではない(略)。ポテンシャルの3割以上は実は開発できない地域」(エネルギー・鉱物資源機構の関係者)。しかも今、「地熱開発は、ほとんどが温泉地の周辺で行われているため温泉が枯渇するといった悪影響が出ることがある。温泉事業者の反発もあり、地熱開発はなかなか進まない」。
記事は最後まで再エネ事業の体たらくを暴き立てるが、締めは「再エネに限界がある以上、電力安定供給のためには、これまで目を逸らしてきた原発について検討せざるを得ない。(略)議論すべき時がきているのかもしれない」で終わっている。ここはおとなしめの結論で物足りない。
官民一丸のエネ政策
1960~70年代、左派の科学者らが、核融合の技術開発に疑問を呈し、左翼の反原子力・原発運動に拍車が掛かり、原発新設の候補地を変更せざるを得ないような時期があった。しかし政府の原子力政策は一貫して原発推進の方向だった。
エネルギー自給を目指さなければ、日本は生きていけないという戦争の反省から、55年、「原子力基本法」が制定され、行政も国民の期待を受け強い信念を持っていた。今、脱炭素、エネルギー自給に対しても同じで、官民一丸となってそういう機運をつくり出さないと、新規の再エネ事業の成功さえおぼつかない。
(片上晴彦)