テロ正当化に繋がる
それでも、感情的に納得できなかったのか、コメンテーターの一人、スポーツ心理学者の田中ウルヴェ京氏は質問した。「どんな理由があろうとも、殺人を犯してはいけない。一方、彼には生活苦という情状がある。しかし、それも安倍元首相のせいなのか。自分が裁判員になったら、これらをどのように理解することが大事なのか」と。
若狭氏は答えた。「まず犯罪の結果にしっかり光りを当てることが大事。その土台の上で、次に情状、動機形成はどうだったのか、というステップに移る。それを一緒くたに考えると、頭が整理できずに訳が分からなくなる」
一緒くたどころか、元首相銃殺という罪の重さそっちのけで、動機形成つまり母親の多額の献金問題など旧統一教会への恨みに焦点を絞り偏った番組づくりをしてきたのが「ミヤネ屋」をはじめとしたワイドショーではなかったか。視聴者の感情を増幅させて視聴率を稼ぐには格好の素材だったのだ。しかし、これは非常に危険なアプローチだ。減刑を求める署名が1万筆以上、寄付も100万円集まったというから、結果的に「テロの正当化」に繋(つな)がったと言える。
遺族の苦しみ触れず
山上被告を“社会的弱者”と見る識者も少なくない。しかし、生活苦から大学進学を諦めても頭脳明晰(めいせき)と言われ、複数の国家資格を持っていた。ネット情報を基に銃を製造した執念を他に向けていたら人並み以上に幸せになれる道はあったはず。情状では、この点も問われなければならない。
ここで懸念材料が思い浮かぶ。果たして裁判員がワイドショーの影響を排除できるのか。安倍元首相夫人の昭恵さんの犯罪犠牲者としての苦しみもある。番組がこれらの点について触れなかったのは残念だった。(森田清策)