
児相職員を困惑さす
明治生まれの祖母は常々「オレは尋常小学校しか出ていない」と、自慢げに語っていた。その祖母が東大安田講堂事件(1969年)のニュース映像を見ながら、「人間は勉強するとバカになる」と、子供の筆者に語ったことを今も鮮明に覚えている。
昨年末、厚生労働省が公表した信仰に関する児童虐待対応Q&Aを読んだ時、祖母の言葉が思い浮んだ。高学歴の役人が作ったガイドライン(Q&A)は、児童相談所(児相)の職員を困惑させてしまうに違いないと思ったからだ。例えば、Q&Aは「地獄に落ちる」などの言葉や恐怖をあおる映像・資料を用いて児童を「脅すこと」は心理的虐待だとしている。
テレビ朝日「大下容子ワイド!スクランブル」(6日放送)はこのQ&Aを取り上げた。その中で、“宗教的虐待”への対応時、「『厚労省からこういう事例が出ている』と、保護者に説明しやすくなる」という、ある児相職員のコメントを紹介した。つまり介入の根拠が明確になったというのである。
だが、コメンテーターたちは問題の改善に向けた「第一歩」と、一応は評価しながらも、表情は複雑だった。そりゃそうだろう。具体的に考えれば、高等教育を受けた人間でなくても、Q&Aの愚かさが分かるのだから。
筆者は祖母に「悪いことをしたら地獄に落ちる」と脅かされ、また寺の地獄絵図を見て育った。そこから、世俗とは違う異質性への自覚や神秘的な存在に対する畏怖の念が身に付いた。そのおかげで、高潔な人間になったと自慢するつもりはないが、小さい頃の宗教教育が自分のアイデンティティー形成に、ポジティブな意味で影響を与えたと確信している。だから祖母に感謝こそすれ、「虐待被害者だ」とは一瞬たりとも思ったことはない。