戦争止める英知とは
朝日にとっては「教訓的な出来事」ではなかったろうか。12月31日、ウクライナの首都キーウでロシア軍のミサイル攻撃があり、朝日記者2人が滞在するホテルも被害を受け、映像報道部の記者(36)が負傷した。自室にいた国末憲人編集委員(59)は、ホテルの外で2回ほどミサイル迎撃の音が聞こえた後、「ドカン」と大きな音がして部屋の窓ガラスが粉々に砕けたと話している(朝日1月1日付)。
朝日の元日付社説は国末氏によるものなのか、「空爆と警報の街から 戦争を止める英知いまこそ」とのタイトルで、こうあった。「昨年12月、首都キーウでも昼夜を問わず空襲警報のサイレンが鳴り響いていた。仕事や家事を中断し、底冷えの地下シェルターで身を寄せ合う。住民によると、避難した先が空爆されて命を落とす人も少なくない。避難するか、否か。『毎回が、命をかけたくじ引きです』。これが戦時の日常である」
どうやら国末氏は避難しなかったようだ。負傷した記者はホテルの敷地内の屋外にいた。社説は「戦地ウクライナに身を置くとまざまざと実感される」とし、次のように嘆じる。「これだけ科学文明が発達し、国境を越えた人の往来や経済のグローバル化が進んだ21世紀の時代にあって、戦争という蛮行を止める策を、人類がなお持ち得ていないことを。一人の強権的な指導者の専横を抑制する有効な枠組みがないことを」
思わず首を傾(かし)げた。戦争を止める英知として「抑止力」があるはずだが、そのことに一言も触れていない。相手がミサイルを飛ばしてくれば負傷し、まかり間違えば命を落とす。朝日記者といえども例外ではない。今回の負傷事件はそのことを如実に示した。だからミサイル発射を思い留まらせる抑止力を持ち、同時に被害を防ぐ手立てを講じておく。朝日が心に留めるべき教訓はそこにあるはずだ。