エネルギー安保対応
岸田文雄首相が今夏、検討を進めることを表明した原子力発電所の新増設などについて、週刊朝日10月28日号は「岸田政権『原発新増設』への大疑問」と題し批判している。
まず原発が60年を超え稼働できるよう規制の見直しについて、環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長は「22年7月までに、世界で廃炉になった原発は204基で、その平均寿命は27年なのです。こうしたデータがあるにもかかわらず、米国を真似て80年にしようなんて無謀で無責任すぎる」と。
だが、首相提案の「延長」は、「(安全規制について)一方的な上限を決めるのは不可能」(原子力規制委員会の山中伸介委員長)という事実に基づき、安全性が確保できれば60年を超えても原発が稼働できるようにするという内容。安全点検を続けながら運転を認めていく方法は、運転期間だけを目安にした延命より合理的で現実的なことは明らか。飯田氏の言う「無謀で無責任すぎる」というのは全く当たらない。
次に原発再稼働や新開発について。飯田氏は「新増設や革新炉は、現実性も経済性もない。ウクライナ危機や円安の影響などで電気料金高騰や電力不足が起きると危機感をあおっている。火事場泥棒的なやり口」と口を極め、「昨年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では『可能な限り原発依存度を低減する』と明記していたが、なし崩し的に方向転換を図ろうとしている」と批判する。
ロシアのウクライナ侵攻は今年の2月。その後、ロシアの天然ガス輸出制限などで、真の世界エネルギー危機に直面している。日本のエネルギー安全保障政策に今後大きな影響を与えかねない。今日の事態は昨年10月時点で予測できなかった。再稼働、新開発の提案は、「なし崩し的に方向転換」でなく素早い危機対応と言うべきだ。
2011年の東京電力福島第1原発事故以降、政府初の「新増設」への言及だが、従来、原発は「エネルギー基本計画」で「重要なベースロード電源」に位置付けられている。「エネルギーミックス」で安定的な電力である原子力発電を20~22%程度にするという国の責務を果たすことだ。