
野党、名刺1枚でも追及か
自民党の機関紙「自由民主」(9・13)は、「旧統一教会『関係を一切断つ』/役員会で基本方針を決定」の見出しで、安倍晋三元首相銃撃事件後の批判報道を受けた対応を載せた。
母親の高額献金で恨みを持つ旧統一教会とつながりがあると思っての容疑者の犯行という警察情報を受け、マスコミの教団批判および関連団体と政治家との接触を取り沙汰する報道が過熱。批判報道の情報源は、被害者を原告とする訴訟を有利にする全国霊感商法対策弁護士連絡会などの資料や主張に依存した内容で、同連絡会は共産党や立憲民主党など野党と近い。
また朝日新聞、共同通信など大手メディアが国際勝共連合など関連団体との接触の有無を問うアンケートを政治家に行い、野党は安倍氏の国葬反対と並行して追及の構えを示した。共産党が「統一協会問題追及チーム」、立民が「消費者部会旧統一教会被害対策本部」を立ち上げ、同連絡会の弁護士からヒアリングを行い、臨時国会に向け政権追及の準備をしている。
その機先を制しようとしたのだろうが、自民党の役員会決定は拙速であり逆効果を招いている。その理由は「接点」に違法性がないからだ。にもかかわらず、岸田文雄首相は「所属国会議員は過去を真摯に反省し、しがらみを捨て、当該団体との関係を断つ」(同紙)と述べ、事の違法、適法を検証せずに「過去の反省」に踏み込んだ。
また、同紙によれば茂木敏充幹事長は、①所属議員に点検と関係見直しを要請し、調査結果の概要を公表②旧統一教会と関連団体と一切関係を持たず、社会的に問題が指摘される団体と関係を持たない方針の順守を求める③チェック体制強化に向け、党の支援態勢の在り方を検討④霊感商法や寄付の悪質な勧誘被害対策を消費者問題調査会に小委員会を設置―などの基本方針を示した。③で党からの排除も示唆している。
被害者の証言など事件後の批判報道で票を失う恐れがあったことは大きい。つい7月の参院選まで公認候補らが集票をお願いした矢先だが、内閣支持率下落の現実から関係見直しの政治判断はあり得る。だが、いきなり過去までさかのぼる問題視は、魔女狩り的な印象で自虐的だ。しかも選挙中の候補と有権者の「接点」まで際限なく広い。
このため、8日に発表された議員点検結果のように儀礼的な祝電、1、2万円程度の会費、パーティー券購入など全て違法性もなく平凡なやりとりだが、これを問題行為として自認することになった。多くの議員たちの過去何年にもわたる日常の政治活動は把握し切れないだろう。後から別の事例が浮上してエンドレスな追及が予想される。
また、特定宗教との関係を断つ過程では、憲法の信教の自由や思想信条の自由を侵害する可能性がある。トラブルを抱えているが、旧統一教会について政府は「反社会的勢力ということをあらかじめ限定的かつ統一的に定義することは困難」とし、文化庁は旧統一教会の宗教法人解散命令を裁判所に請求する要件はないと野党に対して表明している。100万以上の党員を擁する自民党に信者や関連団体の会員がいた場合、内心に踏み込む思想調査や離教・脱会を迫るなど人権問題を生みかねない。
一方、立民は所属議員に名刺交換の「接点」があり、党要職を辞退したと発表した。今度は自民に対しても同じように「接点」として追及するだろう。違法性のないことを問題にする自民の基本方針は、野党側の術策にはまっている。名刺1枚にまで追及材料を広げたことは、政界の度を超えた現象ではないか。
(窪田 伸雄)