
亡命の北青年2人を“生贄”に
韓国では文(ムン)在寅(ジェイン)政権の“旧悪”が暴かれつつある。その最たるものが2019年11月に起きた「亡命北朝鮮人の強制北送還」事件だ。船に乗って東海岸から南に“亡命”した北の青年2人が「16人を殺した凶悪犯」ということにされて、当人たちは「南への亡命」意思を訴えたのに、文政権によって無慈悲に北へ送還されてしまった。
月刊朝鮮(9月号)がこの事件を掘り返している。政権の発表は、この2人が16人の北朝鮮漁民を殺害して、南に逃げて来た、というものだった。ところが、船には殺害の痕跡がなかった。
北朝鮮の人権状況に詳しい「社団法人幸福な統一へ、拉致脱北人権連帯」の都(ト)希侖(ヒリョン)代表は、彼らは北朝鮮の元山(ウォンサン)葛麻(カルマ)地区の「突撃隊所属労働者」で、労働条件が劣悪で当局を批判したことから、命が危うくなり南に逃亡して来た者たちだという。
突撃隊とは当局の命令で全国から動員される頑健な労働者たちのことで、元山地区では金(キム)正恩(ジョンウン)総書記の指示で海岸観光地区が建設中だった。
だが文政権は2人の罪状を詳しく調べもせずに、板門店を通じて北に送還する。目隠し縄手で引き立てられて行った2人は、目隠しを解かれ目の前に北朝鮮兵士の姿を見て崩れ落ちたという。地面に頭を打ち付けて抵抗したというが、力ずくで北へ連れて行かれた。「その後、処刑されたという」と同誌は伝えている。
なぜ文政権はこんな非道なことをしたのか。その理由を同誌は「金正恩ソウル訪問」実現のため、文政権が波風立てずに、送還を要求してきた北の指示に唯々諾々と従ったと結論付けている。
北地域の住民も韓国憲法によれば「大韓民国国民」で、彼らは韓国の法廷で裁かれなければならなかった。その「凶悪犯」を裁きもせずに、文政権はそのまま死が待っていることが確実の北朝鮮に送り帰してしまった。人権にはことさらこだわる文在寅政権がこのような「非人道的」なことをしたとして、韓国の人権団体の批判を浴びた。
同誌は「26年前の『ペスカマ15号』」事件を引き合いに出している。「韓国人を含む船員11人を殺害した朝鮮族6人は韓国籍でない(中国籍)のに韓国法廷で裁かれた。それを『かわいそうだ』として二審の弁護を引き受けたのが(人権派弁護士の)文氏」だったのだ。
文氏の狙いが「金正恩ソウル訪問」実現だとしたが、その準備は「強制北送還」だけでなかった、というのが、今号の同誌の「単独記事」である。韓国の情報組織「国家情報院」元幹部が同誌に語っている。
文氏は金総書記を迎えるために複数の別荘、高級家具、ヨットなどを国税を使って準備していたというのだ。金正恩ソウル訪問は18年9月に文在寅大統領が平壌を訪問した際に約束したもので、以後、文氏はその準備に集中した。翌19年5月には「卓(タク)賢民(ヒョンミョン)大統領府儀典秘書官」が「準備は既に十分整った」とラジオで明らかにしていた。
別荘はソウルと板門店の間にある坡州(パジュ)にあり「16億ウォン」したという。済州島にももう1軒用意しようとしていた。他にヨット好きの金総書記のために「6、7億ウォンのヨット」も購入した。
済州島は金総書記の母・高(コ)容姫(ヨンヒ)氏の出身地で一族の墓地があるが、済州(チェジュ)島訪問の理由は他にもある。文氏は北を訪問した際、朝鮮半島最高峰の白頭山(ペクトュサン)に登り、山頂の天池に半島最南端の山、済州島の漢拏山(ハルラサン)の水を注いだ。今度は天池の水を金総書記と一緒に漢拏山に注ぎ、象徴的に南北統一の“儀式”を完結させたいのだ。
さらに東海岸最北端の江原道(カンウォンド)髙城(コソン)も訪問地候補に入れていたと同誌は伝えている。髙城は脱北者が通って来る所で「軍事要衝地」だ。金総書記が訪問することで「脱北者に“無言の圧力”として作用する」のだという。
結局、金正恩訪問は実現せず、購入した別荘、ヨットなどは政権のお荷物と化している。「生贄(いけにえ)」にされた北朝鮮青年2人に“人権弁護士”文在寅氏は何を言うのだろうか。この「非人道的」仕打ちが追及されようとしている。
(岩崎 哲)





