
生活空間プラン発表
サウジアラビアの事実上の最高指導者ムハンマド皇太子が7月下旬、紅海沿岸に建設予定の未来都市「NEOM」の一部として、「LINE」と呼ばれる居住・オフィス空間を建設するプランを発表した。
その規模は、あまりに壮大で世界のメディアから注目を浴びた。広大な砂漠を擁し、原油から生じる巨万の富を有するサウジならではという印象だが、発表当初から「ユートピアのように描かれたディストピア」(英紙フィナンシャル・タイムズ=FT)と否定的な見方が広がった。
ユートピアが、誰もが自由に、幸福な生活を送ることができる理想郷とすれば、ディストピア、つまり反ユートピアは、自由のない全体主義的管理社会ということになるだろうか。
欧州で発生した産業革命の頃に機械が誕生し、生活が便利になる中で、非人間的で全体主義的な社会を説明するものとしてこのような言葉が登場したのはなんとも皮肉だ。ユートピアとディストピアは表裏一体ということか。
ユートピアを宣伝しながら、行き着いた先は自由のない監獄社会だった国が過去にあったことを考えれば、LINEも似たような運命をたどるのかと考えるのは無理もないことだろう。
サウジの体制批判を行っていたジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害にムハンマド皇太子が関与していたと指摘され、この国の人権状況に一時、世界の注目が集まった。サウジはサウド家を頂点とする絶対君主制国家であり、厳格なイスラム教の解釈が適用される社会。あれこれ配慮しなければならない、ある意味面倒くさい民主主義社会に住む者からすれば、効率的と映るのは確かだ。