核 自民紙ー公明紙の温度差
岸田文雄首相と公明党と相性のいいテーマが核廃絶だ。開催中の核拡散防止条約(NPT)再検討会議(1~26日、米ニューヨーク国連本部)、6日の広島原爆の日、9日の長崎原爆の日に当たり日刊機関紙「公明新聞」では、核問題をめぐる記事が目立ち、核兵器のない世界の実現をライフワークとする首相にも期待を表明した。
「8月のNPT運用検討会議/核廃絶への道筋示せ/『先制不使用』で合意も/日本のリーダーシップに期待」との見出しの7月27日付1面に掲載された山口那津男代表記者会見の記事では、「この会議は、岸田文雄首相が参加して主張を述べる重要な会議だ」と指摘。「ウクライナ侵略でロシアが核兵器で威嚇をする事態が生じた。ロシアも含めて共同声明をしっかり確認した上で、(先制不使用の原則に関し)合意できる道筋をつくっていくことが大切だ。岸田首相には、そうした流れをリードする役割を果たしていただきたい」と訴えている。
NPT会議初日の1日、首相は国連本部で演説し、「核兵器のない世界」に向け5項目からなる「ヒロシマ・アクション・プラン」を提唱した。同紙1日付主張では、「核廃絶の道筋示す合意成立を」と題し「岸田文雄首相も日本の首相として初めて出席する。核廃絶への道筋を示す合意の成立に向け、唯一の戦争被爆国である日本が議論をリードしてほしい」と主張。3日付1面では山口氏の記者会見を「日本が『橋渡し』リードせよ/記者会見で山口代表」の見出しの記事を載せ、首相の演説について「『極めて大きな一歩』と評価した」としている。
公明新聞が核廃絶に関して岸田氏を称賛している一方、自民党の週刊機関紙「自由民主」では、9日発行の8月16・23日合併号の時点でまったく扱っていない。
公明新聞は広島原爆の日の6日付で「核禁条約の参加へ環境整備を」の主張を載せ、日本の核兵器禁止条約参加をも求めている。が、核開発とミサイル実験を続ける北朝鮮、世界に向け核恫喝(どうかつ)を行ったロシア、核軍拡を進める中国を相手に、日米安保条約の下で米国の核の傘に守られるわが国の現実がある。自公で著しい温度差の出るテーマだ。
もう一つ、自公の機関紙で違いが表れたのが、2~3日のペロシ米下院議長台湾訪問とこれに対抗する中国の軍事演習だ。中国は台湾封鎖を想定した軍事演習を行い、弾道ミサイル5発をわが国の排他的経済水域(EEZ)に着弾させた。
「自由民主」8月16・23日合併号は、2面に「米下院議長の訪台『歓迎する』/台湾情勢巡り謝長廷駐日代表らと意見交換」の見出しで3日に開かれた党外交部会の記事を載せた。記事では台北駐日経済文化代表処代表の謝氏が、「ペロシ氏訪台について『台湾の民主主義を肯定し、世界の台湾に対する支援を呼びかけるものだ』」など歓迎を表明したことを報告。外交部会の佐藤正久部会長がロシアのウクライナ侵略に触れながら「日米が台湾に連帯する以外の選択肢はない。ペロシ氏が台湾を訪問するのは、連帯を示す意味でも極めて重要だ」との認識を示した」とある。
また、同紙電子版は5日付で「中国の軍事演習受け党外交部会・国防部会等が政府と議論」と題し、5日に防衛省の説明を受けながら対応を議論したと報道した。同省から「中国の弾道ミサイルがわが国のEEZ内に着弾することは初めてであることや、最も近い着弾地点が沖縄県与邦国島の北北西約80キロメートルの近距離であること等が報告された」として問題視している。
公明新聞はペロシ氏訪台と中国軍事演習を通信社の配信で載せたが、党の反応の発信はなかった。危険なEEZ着弾には、日本人の安全を守る与党として中国に声を上げてほしい。
(窪田 伸雄)