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大統領交代と国民の品格 激励の手紙残す米国、誹謗する韓国

手紙のイメージ(Photo by Álvaro Serrano on Unsplash)

政権の堕落見逃したメディアの反省も

米大統領は退任してホワイトハウスを去る時、執務室の机の上に手紙を残していくという。後任者に向けたものだ。1993年、新任大統領ビル・クリントン氏が机の上に発見したのは前任者ジョージ・ブッシュ氏(父ブッシュ)の手紙だった。

両者は激しい選挙戦を戦った相手であり、政党も違い、政策基調ももちろん違う。両者の生い立ちや境遇も懸け離れており、さらに年齢は父子ほどに違っていた。手紙を読んだクリントン氏は身震いするほど感動し、ヒラリー夫人は嗚咽(おえつ)したという。

「親愛なるビル」で始まる文面は祝福と激励、そして何よりも優しさに溢(あふ)れていた。そして「君を支持し、幸運を祈る」で締めくくられた手紙はこの後、退任する大統領が後任者に残す手紙の模範になったという。

このエピソードを紹介したのは月刊朝鮮(5月号)に「激励の手紙を残す米大統領、邪魔をし誹謗(ひぼう)する韓国大統領」の記事を書いた裴振栄(ペジニョン)記者だ。5年前「見たこともない国」を実現するといって青瓦台(大統領府)入りした左派の文在寅(ムンジェイン)大統領が退任し、10日、僅差で勝利し政権奪還に成功した保守系の尹錫悦(ユンソンニョル)氏が大統領に就任した。

裴記者がわざわざ米国のエピソードを紹介したのは、韓国も米国の真似(まね)をしたらいいと勧めるためではない。韓国の政権引き継ぎがあまりにもごたごたした争いに満ちたものだったからだ。

自分を打ち負かした対立候補とその政党への批判や誹謗だけでなく、文氏は置き土産として「検察捜査権完全剥奪法」まで残した。これは検察の捜査権をほぼ取り上げる法律で、実質的に権力の不正に入れるメスを取り上げたに等しいもの。

韓国の大統領は退任後、在任中の不正や疑惑で取り調べを受け、訴追され、収監されることが多いが、文氏は予(あらかじ)め捜査・訴追の手を縛って辞めたのである。国会は左派野党「共に民主党」が多数を占めているから、こうした嫌がらせを押し通すことができた。「文在寅保護法」とまで言われている。

韓国の読者はこの記事を読んでどう思っただろうか。米国と韓国の政治風土の違い、伝統の差だろうか。裴記者は記事をこう結ぶ。「これは大統領職にある者の品格の問題だろうか。でなければその国の政治文化、いや国民の品格の問題であろうか」と。

もっとも、尹新大統領は龍山(ヨンサン)の国防部庁舎に移した執務室に入ったから、たとえ文氏が青瓦台に手紙を残したとしても、それを目にすることはできなかっただろうが…。

品格といえば、同誌の別の記事「文在寅政権を送りながら書く反省文」(ハ・ジュヒ記者)は文在寅氏と野党が何を守ろうとしたのかの一端をうかがわせる。韓国の納税者連盟が大統領夫人・金正淑(キムジョンスク)女史の衣服代と、大統領補佐官らが開く会議(大統領府ワークショップ)の弁当代金を問いただしたのだ。

金夫人の衣服が高級ブランド品をうかがわせるものが多く、大統領職の報酬ではとても賄えないことは素人でも分かり、政府の金が使われたのではないかと韓国メディアは騒いだ。また、大統領府での会議に出る弁当は別名「皇帝弁当」とも呼ばれる贅沢(ぜいたく)な有名ホテルの仕出しである。

韓国には地位に相応(ふさわ)しい格好・振る舞いを求める伝統があるとはいえ、「弱者の味方」人権弁護士の妻がにわかに贅沢をすれば、周囲の目は厳しくなるし、民主化の担い手を自称した「運動圏」(左派学生運動活動家)出身者たちが“市民革命”でつくった、その政府の贅沢ぶりは、まるで革命政府の横暴堕落である。

この2例はほんの象徴的事例であって、政府幹部の複数不動産所有、女性人権保護を訴える政府にセクハラ人士を重用、「慰安婦」の金を着服した議員の居座り、等々、これらを見逃してきた有権者、メディアにはすべき「反省」があるという記事だ。

「今後は陣営論理を捨てて、批判にも耳を傾けて成功する政権を切実に見たい」というハ記者の声には、新政府への期待と不安が込められている。そのためにはまずメディアが正しい働きをすることだろう。

(岩崎 哲)

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