
健康指南の情報満載
だいぶ前から大衆向けの週刊誌は高齢者向けに心身健康の指南からペット飼育、利殖、相続、終活のノウハウ・情報が毎週のように出、時にかなりのページ数を割いてこれでもかという誌面作りをしている。似たり寄ったりの記事が少なくないが、チョイスして暮らしの役に立てられればいい。
そんな中、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄さんが説く「高齢者こそリモートのススメ」(週刊朝日5月6・13日号)は、高齢者にITアレルギーが多いと言われるのに、オンラインによるコミュニケーションを勧めるという内容で、意外性があって参考になる。高齢者こそ「リモート化の恩恵を最も受ける」と野口さん。
その最大の理由が「遠隔医療」の享受。医師と患者が距離を隔てた所で情報通信技術を用いて行うのが遠隔医療で、診療だけでなく手術などでも利用されることがある。「例えば高齢者が住む田舎町で脳卒中を起こして地元の病院に運ばれた患者について、センター病院の神経科の専門医が診断・治療の指示を出すことが可能になっています」と。
また「日本では定期健診でも病院に行き、長い時間待たされる。コロナ禍ではそれだけ感染リスクが高くなってしまいます。オンライン診療ならそんなことはありません。また、医療の地域間格差も解消できる」。だから高齢者たちは「リモート技術を毛嫌いせずに、積極的に取り入れてはどうか」と野口さん。
遠隔医療導入に遅れ
「現在、オンライン診療は先進国では当たり前になっている。米国では、2020年の1年で10億回利用された」が、日本は遠隔医療導入が遅れている。今、日本でも医師たちはよくiPad(アイパッド)などのモバイル端末を患者のデータ保存で活用しているが、診療はたいていは対面によるものだ。
リモートによる手術やオンライン診療を推進させるには、医療の世話になる機会が多い高齢者がそのニーズを積極的にアピールし、しかもリモートに慣れることが必要。野口さんが「高齢者こそリモート」と主張するゆえんだ。
医師側も、対面とリモート診療を上手に使い分ければ、よりきめ細かい医療を施すためのシステム改良ができ、現場の景色は相当変わるだろう。また離島、僻地(へきち)など場所に限らず等しく診療を受けることができるようになり、医療技術の平準化、引いては医療費削減につながるはずだ。
記者も以前は、医者と患者が向き合ってこそ―ということを信じていたのだが、必ずしもそうでないと思うようになった。股関節の調子が悪くて病院に行った時、レントゲン撮影の後、触診もなく、「痛い時は、薬を飲んでください」と言われ、こちらが「年のせいでしょうか…」などと話し掛けると、長くなると思ってか、医師にかわされてしまった。リモート診察ならある程度、患者のペースで話せるだろう。
野口さんは、他に高齢者のリモート化のメリットとして、「旅行体験」を挙げる。お勧めはグーグルのストリートビューを使った、誰でもできる「バーチャルツアー」で「今は存在しない街を…ストリートビューで現在の街並みと比べながら歩いていると、街の姿が脳内に浮かび上がります」と楽しそう。「使いこなせば人生が変わる!」(小見出し)と。
患者の声に耳傾けよ
一方、週刊ポスト5月6・13日号「プラチナ老後VSブラック老後」の中で精神科医の和田秀樹さんは、幸せに過ごす高齢者を「幸齢者」と呼ぶ。「幸齢者にとって頼りになる医師は、数値だけを見るのではなく患者の言葉に耳を傾け、体の調子をトータルで見られる医師だ。診察時に薬の質問をしてみるといい。『体調と相談しながら減らしていきましょう』といった反応なら信頼できる医師だと思う」と。リモートうんぬんの話は出てこないが、先の記事の趣旨に通じるものがある。
(片上晴彦)