中国・ソロモン安保協定、日経・読売・東京が警戒も視野と深みが欠落

ソロモン諸島の国旗(Image by David Peterson from Pixabay )

台湾が受けた衝撃大

中国とソロモン諸島が安保協定を結んだ。協定の中身は明らかにされていないが、事前に流出した協定草案には、ソロモン諸島が中国軍の派遣や艦船の寄港を認めるなど、高度な軍事協力が盛り込まれていた。主要各紙は、地域の安全保障のバランスを崩しかねない中国の南太平洋軍事進出につながる恐れがあると社説を張った。

4月22日付日経社説「南太平洋で高まる中国の脅威」で「中国は近年、経済協力をてこにキリバス、バヌアツなどにも影響力を強めている。ソロモンと同様な協定を交わし、南シナ海や東シナ海で高まっている軍事的緊張が南太平洋でもエスカレートする事態は避けなければいけない」と懸念を述べた。

また29日付読売社説「中国と南太平洋 軍事拠点化を防ぐ手立て急げ」は、「協定によって、中国軍がソロモンに駐留するようになれば、南太平洋の安定と航行の自由が脅かされる恐れがある」とし「米国、豪州、日本は地域の平和と安定の維持に向け関与を強めるべきだ」と主張した。

さらに28日付東京社説「中国と南太平洋 新たな火種とせぬよう」で、「ソロモン諸島周辺は日本や米国などの船舶にとっても海上交通の要衝である。米、豪、日などの対応が後手に回った感は否めない。この上は、三カ国にインドを加えた『クアッド』を中心に、外交力を総動員し、中国がソロモンなどを利用する形で軍事拠点を築く動きに断固対抗していくべきである」との論調だ。

いずれもまともな危機認識だし、主張も正しい。ただ、それでも物足りなさが残る。視野の広さと深みにおいて今一歩、突っ込んでいないからだ。三つの社説に共通して、欠落していた視点が2点ある。一つは台湾が受けたソロモンショックの強さだ。

2019年9月まで台湾と外交関係があったソロモン諸島が、一気に中国に取り込まれ、わずか3年で脅威を与える存在になったことは大きな衝撃であった。今回、中国がソロモン諸島と締結した安保協定は、外交や経済関係だけでなく南太平洋に軍事的橋頭堡(きょうとうほ)を築いたという意味で、受けた衝撃は計り知れないものがある。台湾有事の際、台湾海峡に接近する西側艦艇に対し、遠く離れた海域から阻止作戦を展開できるようになる可能性を持つからだ。

南太平洋で米豪分断

もう1点は中国の一帯一路構想における、南太平洋での米豪分断の野心だ。ソロモン諸島は3年前、一帯一路構想に署名した。一帯一路構想の特質は、経済開発と安全保障が絡んだ軍事拠点の確保が一体となっていることだ。一帯一路構想はユーラシア大陸の東西を陸路と海路で結ぶだけでなく、短刀を太平洋に突き出す格好で南太平洋に伸ばしている。

とりわけソロモン諸島は、太平洋を2分割するアリューシャン列島やハワイ、南太平洋の米領サモアを経てニュージーランドに至る第3列島線に近く、米豪を結ぶ海上交通路(シーレーン)上に位置する要衝の島だ。中国が軍隊を持たないソロモン諸島で軍事拠点を持てば、ほぼ中国が自由に使えることを意味する。その目的は米豪を分断し将来、西太平洋を「中国の海」にするための拠点構築にある。

ホワイトハウス国家安全保障会議のカート・キャンベル・インド太平洋調整官が中国・ソロモン諸島安保協定締結後の3日後に急遽(きゅうきょ)、ソロモン諸島を訪問したのも、こうした安全保障上の懸念を持っていたためだ。キャンベル氏はこの時、ソガバレ首相と会談し「(中国軍が)事実上の恒常的駐留措置に出るなら、重大な懸念が生じるため、対抗措置をとる」と釘(くぎ)を刺している。

リスク伴う天秤外交

人口70万人のソロモン諸島にすれば、大国間の軋轢(あつれき)を利用した天秤(てんびん)外交で双方からの経済的引き出しを大きくしたいバーゲニングパワー強化策ということだろう。しかし、武力を背景にした安全保障問題の最前線にいることを熟知していないと、小国の主権そのものが流れ弾に当たって弾(はじ)き飛ばされてしまうリスクが存在する。そのリスクは台湾だけでなくわが国も同様だ。

(池永達夫)

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