与野党の防衛論議が9条解釈論にとどまる恐れ示唆した「日曜討論」

陸自隊員(手前)とあいさつを交わす米海兵隊員 =2021年12月7日午後、青森県八戸市の陸上自衛隊八戸駐屯地

審査会での検討要請

ウクライナの状況からわが国でも侵略されたらどうするかの議論が起き、改めて憲法も問い直されようとしている。ロシアの政治家からは「ロシアは北海道に権利がある」との発言もあった。

3日の憲法記念日では改憲賛成・反対両派が世論に訴え掛けようとしているが、国会で憲法審査会が動き出し、改憲発議で国民の判断を問う環境を整えつつある。4月10日放送のフジテレビ「日曜報道ザプライム」は、与野党の論客をゲストにウクライナをめぐる議論が自衛力や緊急事態など憲法問題に及んだ。

番組では「憲法9条に基づく“防衛力”とは?」として砂川事件最高裁判決(1959年12月16日)と政府解釈を比較、同判決の「国際情勢の実情に則し適当と認められ」、かつ政府解釈の「自衛のための必要最小限度のもの」について議論した。

憲法審査会が機能してきたと評価するレギュラー出演者の橋下徹氏は、内閣法制局の憲法解釈(政府解釈)で考えてきた日本の安全保障を、同審査会で政治家が考えてほしいと要請。ウクライナでロシア軍は極超音速ミサイル「キンジャール」を投入しており、中国、北朝鮮が同様なミサイルの発射実験を行うなど、米国よりも進んだ兵器を保有し始めている。

自民党政調会長代理の新藤義孝氏は、「安全保障は相対的なもの」と述べ、「新しい兵器がない時代と、今できてしまったら当然対処は変わってくる」として脅威は何か、どう対処できるか、力の均衡に何が必要かの議論を同審査会でも行う意向を示した。

立憲民主党の小川淳也政調会長は、最高裁判決と政府解釈の文言は「そんなに変わらない」との認識を示し、防衛費の国内総生産(GDP)比1%枠をどうするか、攻撃型大型空母、弾道ミサイル、長距離爆撃機など「これを備えることは、果たして自衛の範囲を超えないのか現実論として議論しないといけない」と述べた。

日本は嘘つき国家?

ロシアは米国のミサイル防衛(MD)網を突破する新兵器を開発し、政府は「イージス・アショア」配備を中止した。「国際情勢の実情に則し」た出来事だが、自民党は27日に「反撃能力」保有やGDP比2%を目標に防衛費増額を求める提言書を岸田文雄首相に提出した。

新藤氏と小川氏の発言に、今後の防衛論議の与野党対立が予想できる。が、これは従来の解釈論の議論だ。番組で新藤氏は「9条の最大の問題は国防規定がないことだ」と訴えたが、9条を改正しないと再び解釈論が続く。

その陥穽(かんせい)は日本が嘘(うそ)つき国家と見られることだ。筆者が90年代後半にモスクワに駐在していた時、知人のロシア人ジャーナリストが、訪露した日本の政治家が相当悪いやつだと政府内で噂(うわさ)になっている、と知らせてきた。聞けば当時の野呂田芳成防衛庁長官の訪問で、軍を持たないなど9条の平和主義といった説明をしたことへのハレーションだったという。

陸海空自衛隊が持つ装備で安保条約の下に米軍と演習もする光景は、“日本軍と米軍の集団的自衛権行使の動き”と外国は見る。憲法9条も文章通りに読む。すると目下のブチャの虐殺について、国連でロシア大使が「ロシア軍は市民を攻撃しない。虐殺はない」と言うのと変わらない。

緊急事態規定で対立

番組だが、論争になったのは国防規定よりも緊急事態規定だった。ウクライナで緊急事態に入り議員任期を延長するなどしながら議会が法を60本以上成立させたことを番組は紹介。新藤氏は国会議員任期延長など憲法に緊急事態を盛り込む必要を説いた。

小川氏は「ウクライナ情勢で憲法改正だ、緊急事態だ、便乗するのはやめろ」と批判。さらに「集団的自衛権を書き込んで国民に問うてくださいよ、そういう人の言うことなら信用できる」と言う。そのような改憲なら国民投票で潰(つぶ)せるとの考えだろうが、むしろ挑発に乗ってほしい気もする。そろそろ9条改正の国民投票をしてみたい。

(窪田伸雄)

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