
軍民両用の科学技術
「♪ロシア軍は、われわれを短期間に征服したかった……そのロシア軍を倒すのは、バイラクタル、バイラクタル」
テレビ朝日の「グッド! モーニング」(15日放送)によると、ウクライナ兵士は今、トルコのバイカル社がドローン(無人航空機)システムを活用して開発した無人攻撃機「バイラクタルTB2」をたたえる、こんな歌を口ずさんで、士気を鼓舞している。ユーチューブには、TB2がロシアの戦車を火だるまにする動画がアップされ、当初、ロシア軍には通用しないとの見方があったTB2は、今やロシアに対するウクライナの抵抗を象徴する軍需品だ。
情報戦において、ウクライナはロシアを圧倒していると言われているが、それを支えているのは「スターリンク」。米国の民間企業スペースX社の衛星インターネット接続サービスだ。地上の通信インフラ施設が破壊されても、衛星から直接電波を送ることができるからドローンにも使うことができる。スターリンクがウクライナ軍を支えていると言っても過言ではない。
科学技術は基本的に軍民の両用(デュアルユース)だが、ウクライナの善戦は情報通信技術(ICT)や人工知能(AI)などのハイテク技術がなければ、すぐに白旗を揚げざるを得なくなる21世紀の戦争の現実をわれわれに知らせているのだ。
官と民、そして研究機関が一体となって、技術開発を進めることが国の存亡のカギを握る時代にあって、研究者による軍事研究を忌避する国がある。日本だ。
大学での研究困難に
「今、大学の理系の先生は、『軍事研究はしない』と一筆書かないと、大学で研究することができない」――BSフジの時事討論番組「プライムニュース」(14日放送)で、こう語ったのは、自民党外交部会長の佐藤正久参議院議員。2020年に、菅義偉首相(当時)が会員候補6人の任命を拒否したことで、注目を集めた日本学術会議は、発足当初から共産党との関わりが深く、1950年と67年に「軍事目的の科学研究は行わない」という声明を、また2017年には安全保障技術研究推進制度に反対する声明を出している。軍事に利用可能な研究が大学で難しくなっているのはこのためだ。
佐藤氏と共に番組に出演した鈴木一人・東京大学公共政策大学院教授も「スターリンクもガーファムも、もともとは民。民で培ったものを軍にどんどん提供していて、それが(ウクライナの)力になっている。その関係が日本ではまったく存在していない。民は民、軍は軍と別れていて、この間の溝はものすごく深くて、民で開発したものを軍に提供することが難しくなっている」と憤る。
グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフトのIT企業5社(ガーファム)は、フェイクニュースを削除したり、サイバー攻撃から保護したりするなど、積極的にウクライナ支援を行っている。
衰退が続く防衛産業
わが国で、官民が一体となって防衛技術を開発できない理由はもう一つある。佐藤氏が説明する。「実は、防衛産業は撤退する部分が増えて、どんどん衰退している。コマツなんかそうです。儲(もう)からないから。三菱重工といえども、自衛隊関係は、全体の売り上げの1割もない。海外に売れないので、お客さんは自衛隊だけ。そうなると、先細り」
世界2位の建機メーカーのコマツは、自衛隊向けに装甲車両などを生産してきた。しかし、採算が合わないことから、車両の一部生産を終え、新規開発も中止している。
ロシアによるウクライナ侵略を目の当たりにして、自民党内で防衛予算を国内総生産(GDP)の2%に増額すべきだとの主張が広がってきたが、この期に及んでも科学技術予算を防衛研究に充てることに対する学術界の抵抗は強い。ウクライナはガーファムを味方に付けることができたから、情報戦で優位に立つことができたが、当事者意識の弱い国に誰が味方してくれるのだろうか。
(森田清策)