ウクライナ戦争で急変した世界経済の動向を分析するエコノミスト

送電線のイメージ(Photo by Matthew Henry on Unsplash)

原油価格高止まりか

このところ、円安傾向が止まらない。4月19日、ほぼ20年ぶりに1㌦=128円台を付け、市場関係者を驚かせた。一方、原油価格は高騰し、国内のガソリン価格も高止まりで推移し、併せて食料品価格も一斉に値上がりするなど国民生活を痛撃している。当然、その主要な背景にはロシアのウクライナ侵攻がある。問題はそれがいつまで続くのかだ。

こうした中で、週刊エコノミストが3月末から4週にわたって世界経済の動向分析を企画した。第1週の「ウクライナ侵攻 世界戦時経済」(3月29日号)から「ウクライナ侵攻 戦時 日本経済」(4月5日号)、「ウクライナ戦争で急変 世界経済入門」(12日号)、「ウクライナ侵攻 世界エネルギー戦争」(19日号)といった具合に、外為・株式市場からエネルギー、金融の分野に至るまで論じている。

その中でわれわれの関心が大きい経済分野のテーマはエネルギーと物価の動向だろう。とりわけエネルギーに関して言えば、原油価格の上昇が止まらない。「向こう2~3カ月、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)は高止まりし、一時的に史上最高値(1バレル=147・27㌦、2008年7月)を更新しても不思議ではない」(4月12日号)と専門家はみている。

現在のWTIの原油価格は1バレル=108㌦(20年3月の月平均)。新型コロナウイルスの感染拡大が始まった20年4月、いわゆるコロナショック時の1バレル=16・52㌦であったのを見れば、7倍近い上昇を見せている。ただ、最高値を更新するかどうかは今のところ不透明だ。

「OPEC(石油輸出国機構)プラスは緩やかな増産を重ね…。また原油高で採算性が高まったことで米シェールオイルの増産につながろう。…22年度末の原油相場は100㌦前後で高止まりすると想定している」(同号、芥田智至・三菱UFJサーチ&コンサルティング主任研究員)と今後のOPECや米国の動きを注視している。もっとも、こうした高止まりでの推移は、当然小麦などの穀物価格の上昇も加わって、食料品価格の上場に跳ね返る。今後、賃金が上昇しなければ消費の減退し、強いてはそれが景気の後退につながり、スタグフレーションに陥る可能性がある。

露産LNGの影響大

一方、4月19日号では天然ガスに焦点を当てた。日本はここ10年、液化天然ガス(LNG)を燃料とした火力発電に力を注いできた。石炭火力に比べて二酸化炭素の排出量が少ないからである。そのLNGについてわが国の全輸入量の8・3%(19年度)をロシアから購入してきたのである。10%に満たないとはいえ、「ロシア産LNGの輸入が滞れば日本のエネルギー危機はさらに深刻化する」(同号)と指摘。

というのも、「広島ガスは全体の約5割、東邦ガスは2割、九州電力、東北電力、東京ガスも1割をサハリン2からのLNGに依存している」(同誌3月29日号)現実があり、仮に日本がサハリン2から撤退した場合、日本の電力供給に即座に大きな影響を与えることは必至。結局、岸田文雄首相はサハリン2から撤退しないという苦渋の選択をせざるを得なかったのである。

エネ政策見直し必至

確かに、ロシアによるウクライナ侵攻は、各国のエネルギー政策の見直しを迫っている。それは日本にとっても同様だ。バイデン米大統領はそれまでの脱炭素戦略を見直し、短期的には石炭、石油の増産を指示した。「今後、ウクライナ侵攻がどのような形で決着しようとも、米欧日とロシアが侵攻前のような関係に戻る可能性は極めて低い。…エネルギーを含めあらゆる分野で、ロシアとの緊張状態は当分続く」(同号)とするならば、エネルギー政策の見直しは必至。11年3月の東日本大震災以降、原子力発電は“悪魔の炎”とでもいうような扱い方をしてきたわが国だが、もう一度、原子力発電のメリットを見詰め直す良い機会だと言える。

(湯朝 肇)

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