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自衛隊「違憲合法」論に従い志位氏の「違憲活用」論を黙認する左派紙

日英実動訓練「ヴィジラント・アイルズ」でヘリコプター搭乗のため待機する陸自隊員 =静岡県小山町の陸上自衛隊富士学校 訓練名「ヴィジラント・アイルズ」=「常に目を光らせる島」、もしくは「警戒厳重な島」という意味
(2018年撮影)

「縮小→解消」が目的

かつて石橋政嗣社会党委員長が「自衛隊は違憲だが、手続き的には合法的に作られた存在だ」との「自衛隊違憲合法」論という珍説を唱えたことがある(1983年)。国民の自衛隊への支持が高まり、従来の自衛隊「縮小→解消」論が通じなくなったので責任政党への「大胆な脱皮」を印象付ける「ニュー社会党」の看板に据えた。

指南したのは法学者の小林直樹氏(当時、専修大学教授)だ。「これは世界中たった一つの異常な例外」で、「『違憲=合法』という事実は、法(学)には説明がつかない背理」だが、それでも大きな利点があるとした。それはこうだ。

「違憲性を絶えず指摘しながら、同時に法律上可能なかぎり自衛隊の膨張や逸脱を抑制することが、今日の憲法状況の中で特に必要とされていると思う。『違憲=合法』論は、たんなる認識の仕方に関する問題にとどまらず、そのような政策的態度に有効な視点を与える」(『憲法第九条』岩波新書、82年刊)

矛盾する理屈をこねてでも自衛隊を縮小→解消に追い込む。マルクス主義政党の社会党にとっては革命の戦術手段として有効だというわけだ。

それから40年経(た)って今度は日本共産党の志位和夫委員長が新たな珍説を唱えた。

「急迫不正の主権侵害が起こった場合には、自衛隊を含めてあらゆる手段を行使して、国民の命と日本の主権を守りぬくのが党の立場だ」(7日の記者会見で=読売8日付)

自衛官を人間の盾に

共産党は自衛隊を違憲としているから、言ってみれば「違憲活用」論だ。同党はこれまで反自衛隊闘争を繰り広げ、自衛官の子弟を「人殺しの子」と人権侵害の限りを尽くし、防衛費を「人殺し予算」(2016年、藤野保史政策委員長)とまで言い、自衛隊に手枷(てかせ)足枷をはめてきた。

それがウクライナ情勢を受けて有事に自衛隊を活用すると本気で言うなら、自衛隊を合憲とし、しかるべき防衛力を持たせるべきだ。それもせず、戦う武器を奪っておいて敵の矢面に立たせるなら、それこそ自衛官の「人間の盾」化に等しい。非人道この上ない「違憲活用」論である。

これを自民党や日本維新の会、国民民主党は「ご都合主義だ」と批判している。一方、立憲民主党は「現実的路線化だ」と好意的に受け止めている(産経15日付)。立民は「違憲合法」論の旧社会党の流れを汲(く)むので「違憲活用」論と親和性があるのだろう。

では、新聞は志位発言をどう捉えるのか。ご都合主義か、現実路線化か、1紙ぐらい物を言ってもよさそうだが、そろって沈黙している(17日現在)。毎日17日付社説「参院選に臨む野党 政権へのスタンス明確に」は志位発言に触れず、安全保障のアの字も書かずに「野党各党は有権者に判断材料と選択肢を示す責任がある」と惚(ぼ)けている。

そもそも新聞は「急迫不正の主権侵害」にどう備えるべきと考えるのか。保守紙は、本紙「核の共有論議 先入観排し安保政策再検討を」(3月4日付)、読売「国家安保戦略 現状変更許さぬ抑止力を築け」(31日付)、産経「日本の防衛費 平和へ思い切った増額を」(4月3日付)と、防衛力強化を明確に唱える。

究極の「ご都合主義」

これに対して左派紙は思考停止だ。毎日は語らず、朝日は核共有論議を提起した安倍晋三元首相に「不見識極まりない発言をした」と高飛車に言い(3月1日付)、東京に至っては「非核三原則否定するな」(2日付)、「安保法施行6年 9条の『たが』締め直す」(28日付)、「敵基地攻撃能力 専守防衛の意義は重い」(4月15日付)と、ウクライナ戦争などどこ吹く風で「戦後思考」にしがみ付いている。

つまり左派紙は今も旧社会党の「違憲合法」論に従い、小林氏の「違憲性を指摘しつつ、自衛隊の膨張を抑制する」を地でいっているのだ。そして有事となれば「違憲活用論」か。とすれば、左派紙こそ究極のご都合主義である。

(増 記代司)

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