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ウイグル族の拘束・中国送還に協力する中東各国政府を非難する米誌

習近平中国国家主席(UPI)

少数民族抑圧を容認

中国の習近平体制下で、ウイグル族が弾圧されていることで国際的な非難が高まる中、中国は国外のウイグル族の拘束、本国送還にも取り組んでいる。自国での迫害を逃れ、同じイスラム教徒が多い中東に移住したウイグル族の送還に政府が協力しているとの見方が出ている。

米誌タイムは今月に入って、サウジアラビアで、ウイグル族親子の中国送還にサウジ政府が協力していると指摘した。同様の事例はアラブ首長国連邦(UAE)、カタール、エジプトなどでも起きているとされ、タイムは「中国のウイグル族弾圧に沈黙しているだけではない。共犯だ」と激しく非難している。

中国は中東諸国への進出を進め、経済、政治的関係を強化している。巨大経済圏構想「一帯一路」を拡大していく上で、アジアと欧州の中間に位置する中東は、重要な戦略的拠点ともなり得る。アフリカへの足掛かりとしても重要だ。欧州へとつながる紅海の入り口に位置するジブチに初の海外軍事基地を設置したのもその一環とみていいだろう。

タイム誌は、サウジはアラブ世界での中国の主要な友好国とした上で、「これまで、中国政府によるウイグル文化への弾圧に支持を表明してきた」ことを指摘している。

サウジの事実上の最高権力者、ムハンマド皇太子は2019年の中国訪問時に、「国家の安全を守るためにテロ対策、過激主義抑制策を取る中国の権利を尊重し、支持する」と述べている。中国の新疆ウイグル自治区では、約200万人のウイグル族が強制的に収容されるなどの激しい弾圧が続いていることが報じられているものの、中国当局は「職業訓練」だと弾圧を否定している。ムハンマド氏の発言は、事実上、ウイグル族など中国内の少数民族への抑圧を容認するものだ。

サウジ自身も、体制に批判的だったジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害にムハンマド氏が関わっていたとされるなど、体制維持に強権を行使しており、中国とは相通じる部分があるのだろう。

悪質かつ違法な措置

タイム誌によると、そのサウジで、2人のウイグル族親子が中国に送還されようとしているという。

米誌「フォーリン・ポリシー(FP)」も14日、「ウクライナに世界の関心が集まる中、サウジはひそかに13歳の子供と母親の2人のウイグル族を、その他の2人のウイグル族と共に中国に送還しようとしている」と指摘、「悪質であるばかりでなく違法だ」と強く非難した。

タイム誌によると、アラブ世界で少なくとも6カ国、サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、カタール、モロッコ、シリアで中国の指示を受けてウイグル族が拘束、送還されているという。米非営利団体「オクサス中央アジア問題協会」によると、02年以降で292人のウイグル族がアラブ諸国で拘束または送還され、その大部分は、「近年」に集中している。

タイム誌の調査でも、「習近平国家主席の『テロとの人民の戦い』が14年に開始されて以来、20カ国で少なくとも1327人が拘束、送還され、その大部分はイスラム教徒が多数派の国々だ」という結果が出ている。

FP誌は、「送還は人道に反する罪への幇助(ほうじょ)だけでなく、(保護を求める者を守らねばならないとした)イスラムの原則にも反する」とサウジの対応を非難する。

尋問する施設設置か

英スカイ・ニュースは2月に、UAEに「ブラックサイト」と呼ばれる、ウイグル族を拘束、尋問する施設が設けられていると報じた。中国、UAE当局は当然ながら否定している。

FP誌は、「中国の国外への経済的、政治的影響は強まっており、今後さらに、ウイグル族など国外の反体制派への監視は強まる」と警鐘を鳴らす。

(本田隆文)

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