
野党が多数を占める国会
尹錫悦氏の大統領当選は韓国保守層を歓喜させている。保守言論界の重鎮・趙甲済(チョカプチェ)氏は月刊朝鮮4月号で「ほとんど一人の力で左翼運動圏政権から権力を奪還した」「世界史的事件」とまで言っている。
「一人の英雄的闘争で国の運命がこのように逆転したことはかつてなかった。尹当選者はスーパースター、スーパーヒーローだ」と、もう手放しの称賛なのだ。
賛辞の幾つかを紹介する。
「尹錫悦当選は、金日成(キムイルソン)に魂を売った左翼運動圏勢力に対する審判だ。この30年間、民主闘士に偽装、国政を壟断(ろうだん)した彼らの正体を最も効果的に国民に教育した人が尹当選者だ」
「彼の執権は運動圏政権の親北従中路線を整理して、大韓民国の繁栄を保障した自由海洋文化圏に復帰する信号弾だ。そうした点で東北アジアを越えて世界の勢力均衡を変えるほどの世界史的事件ということだ」
どれほど尹氏の当選を喜んでいるかが分かる。
そして、勝因の一つとして「歴代大統領選で一度の例外もなく、勝利した候補が最も多く支持率を得たのが自営業者」という点を挙げて、「真の勝者は大韓民国の資本主義精神ではないか」とも指摘する。
文在寅政権の「従北親中」「反日離米」が終わり、尹新政権の韓国が日米の自由民主主義・資本主義陣営に軸足を戻す“世界史的”選挙だったという評価である。
だが、果たして韓国はそうなるのだろうか。月刊中央4月号では作家の李文烈(イムニョル)氏がこう述べている。
「自由民主主義と市場経済を正しく立て直すのが一次的課題ではないでしょうか。尹当選者は選挙中、公正と常識、正義が生きている国をつくると言っていましたよ」
左翼政権の5年間で失った「公正と正義」を取り戻すのが最初の課題ということだが、国会は野党が多数を占めており、運動圏に支えられた文在寅氏の人気も衰えていない。さらに、李在明氏は党内にしっかりと勢力を構えていきそうだ。尹新大統領の取組がすんなりと実現できる環境ではない。各氏が示すような楽観的未来は描きにくいのだ。
保守と左派に分断された韓国の国家的統合という難題に尹氏はどう取り組み、成し遂げていくのか。まだその道筋は見えてこない。
(岩崎 哲)