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日銀短観の7期ぶり景況感悪化に「円安進行」の懸念指摘しない読売

日本銀行(PhotoAC)

供給面の見直し急務

日銀が発表した3月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、大企業製造業、非製造業とも景況感を示す業況判断指数が7四半期(1年9カ月)ぶりに悪化に転じた。

3カ月後の先行きでも、大企業だけでなく中企業も悪化を見込んでいる。景気は今後どうなるのか、非常に気になるところである。

今回の短観に社説で論評を掲載したのは、保守系紙で読売、日経、本紙、左派系紙では毎日の計4紙。見出しを並べると次の通りである。

2日付読売「侵略が企業の心理を冷やした」、日経「資源高と円安の影響に十分な目配りを」、3日付本紙「国内経済に強まる不透明感」、6日付毎日「物価高との連鎖に警戒を」――。

読売のいう侵略とは、もちろん、ロシアによるウクライナ侵略のことである。コロナ禍から回復傾向にあった国内経済は、この侵攻を受け、原油など原材料価格の一段の高騰により、先行き不透明感が高まっているが、読売は「ロシアの侵略が長期化することへの不安を反映したと言える」と指摘する。

同紙は、当面、ロシアとの貿易は停滞する可能性が高い、として、それを前提に、「企業は中長期的な戦略を練り直さねばならない。サプライチェーン(供給網)の見直しが急務だ」と説くが、その通りである。

併せて、石油や液化天然ガス(LNG)、自動車の排ガス浄化装置などに使うパラジウムなど重要物資7品目について、国産化やリサイクル技術の向上、同盟国との連携による調達の安定化などを図るという経済産業省に対し、「効果的な支援に努める必要がある」とするが、これまた、尤(もっと)もである。

景気後退下の物価高

その他にも同感とする点もある読売の論評なのだが、他の3紙にある「円安進行の懸念」が同紙には何故(なぜ)かないのである。

見出しに「円安の影響」を取った日経は、今回の短観で、販売価格と仕入れ価格の判断DI(指数)からは、原材料費の上昇を価格転嫁し切れず採算悪化に見舞われている企業の姿が浮かび上がるとし、「これに追い打ちをかけるのが足元で急速に進んだ円安だ」と強調する。

本紙も「警戒を要するのは、最近の円安の進行である」として、価格転嫁ができなければ、円安による輸入コストの上昇を補い切れず企業収益を圧迫、逆に転嫁できたとしても、さらなる値上げで家計の負担が増し、消費にマイナスの影響が出れば、景気そのものを悪化させる恐れもある、との懸念を示す。

毎日も同様に、「心配なのは、物価高と景気の冷え込みが連鎖する事態だ」と指摘。賃金上昇の動きが広がらず、消費も低迷すれば、企業のもうけが減り、賃上げの余地はさらに狭まる、という理由からである。

また、本紙も懸念しているが、毎日は景気後退と物価高が同時進行する「スタグフレーション」の可能性を指摘する声も出始めており、「注意が必要だ」と強調。

物価上昇を招く円安

日銀が「円安は全体として日本経済にプラス」と説明していることに対しても、「最近では企業の想定(1ドル=111円93銭)より10円程度も円安方向に振れる為替水準が続いている」「(円安は)さらなる物価高を招きかねない」と危機感を示すのである(13日の東京外為市場の円相場は1ドル=126円台と円安がさらに進んでいる)。

本紙はさらに、長期金利の上昇を食い止めようとする日銀の指し値オペは、市場では円安容認とも受け取れ、さらなる円安への誘因となろうと懸念。日経は「内需型産業への逆風は強まる」として「金融政策面での対応は難しいが、企業の資金繰りなどを注視し、必要と判断すれば手を打つべきだ」と説き、円安進行に言葉を尽くすのである。

今回の読売社説には「円安」の言葉さえない。日頃景気動向に敏感な同紙にしては不思議である。

(床井明男)

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