
札幌地裁の変な判決
札幌地裁は時々変な判決を下すらしい。半世紀ほど前、福島重雄裁判長が自衛隊違憲判決を下したことがある(長沼ナイキ訴訟、1973年)。憲法9条は自衛権を否定していないが、2項で「戦力不保持」とあるので、「戦力」でない手段の自衛権にすぎないとし、「警察力や群民蜂起」などで自衛権を行使すべきだとした。
空論である。これでは重武装する侵略軍になすすべがなく、国民をホロコースト(大量虐殺)にさらすだけだ。ウクライナを見れば一目瞭然。ゼレンスキー大統領がNATO(北大西洋条約機構)諸国に武器提供を求めるのは「戦力」がなければ自衛権を行使できないからだ。
その札幌地裁が3月25日、街頭演説中の安倍晋三首相(当時、2019年参院選)にヤジを飛ばした男女2人を排除した北海道警の行為を憲法で保障された表現の自由を侵害したとして道に計88万円の支払いを命じる判決を下した。
これを朝日は25日夕刊社会面で一報し、翌26日付社会面ではトップで「ヤジ排除『表現の自由侵害』 道警側に賠償命令『重要な憲法上の権利』」と大きく報じ、27日付「天声人語」、29日付社説「裁かれた道警 許されぬ憲法の軽視」と続けた。護憲の朝日にとってはビッグニュースというわけだ。他紙はさらりと報じている。
この判決も変な判決だ。原告の男は団体職員、女は当時大学生だった労働団体職員で、JR札幌駅前で安倍氏の応援演説に「安倍辞めろ」「増税反対」などとヤジを飛ばし、警察官に後方に移動させられた。それだけの話だ。男性は札幌三越前の演説会場でも同じことをやっているので、演説を妨害しようと付きまとう職業的活動家なのだろう。
警備ぶり見事な道警
それを判決は「原告らは、いささか上品さにかけるきらいはあるが、これらはいずれも公共的・政治的事項に関する表現行為」とし、警察官の行為を「表現の自由を制限した」と断じている(判決要旨=朝日26日付)。
「上品さにかけるきらい」とは下品で不快感を与えるという意味だろう。それを放置すれば演説を聞きに来た人とトラブルが起こるのは時間の問題だ。判決は「男性が声を上げてから警察官が男性の肩などをつかむまでは10秒程度で、そのわずかな間に小競り合いがあったようにはうかがえない」とするが、10秒程度で移動させたので争いを回避できたと言うべきだ。道警が非難される謂(いわ)れはない。
ちなみに職業的活動家は警官に排除されようとすると、自ら道路に倒れこみ「暴行を受けた」と言い募ったりする。それをさせず排除した道警は見事な警備ぶりである。
それにもかかわらず「天声人語」は判決以上に妄想を膨らませる。「デモの列に加わるときに思うのは、ここがもしロシアやミャンマーのような国だったら、ということだ。今のロシアなら、たった1枚のプラカードを掲げただけで逮捕され、刑を科されるかもしれな
軍政下のミャンマーでは、たったひとこと声を上げただけで銃を向けられるか。見えない猿ぐつわが、まちの中にある。日本をそんな状態に近づけてはならない」。その上で地裁判決を持ち出し「ロシア流、ミャンマー流の弾圧を水で薄めただけである」と決めつけている。
参院選“ヤジ乱戦”に
冗談ではない。ロシアではウクライナ軍事侵攻を「戦争」と述べただけで最大15年の禁錮刑だ。ミャンマーでは街頭デモで射殺される。それを「20メートル以上後ろに移動させた」ヤジ排除を同列に置くとは、治安を守る日本警察に対する侮辱というほかない。
下品なヤジが堂々の表現の自由なら、今夏の参院選は“ヤジ乱戦”の騒乱を呈するだろう。福島重雄氏は共産党系の「青法協」(青年法律家協会)会員だったが、今回の裁判長はどうか。デモの列に加わる「天声人語」氏も同類の職業的活動家と言うべきか。
(増 記代司)