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情報遮断と言論統制で分断されたロシア人の本音報じるNW日本版

ロシア軍からの攻撃を受けた後の救急作業の様子=ウクライナ、3月29日(UPI)

露軍の蛮行は伝えず

実際のところ、ウクライナ侵攻をロシア人はどう思っているのだろうか。ニューズウィーク日本版(4月5日号)が「ロシア人の本音」を特集した。これは本当に知りたいところだ。なぜかと言えば、この状況を変え得るのは、ウクライナ政府と軍と国民の頑張りを除けば、結局のところ、手が出せない北大西洋条約機構(NATO)など国際社会でなく、ロシア国民しかいないからだ。彼らがプーチン大統領を止める以外ない。

米オンライン誌「デイリー・ビースト」モスクワ支局員のアンナ・ネムツォーワが「分断されたロシア国民の戦争への本音」を書いている。

「ウクライナ侵攻が始まった時点では、ロシア国内の状況がここまで厳しくなるとは誰も予想していなかった」という。当初、市民の間でパニックが広がった。買いだめ、預金引き出し、もの不足、国外脱出などだ。「3月半ばまでに、IT系の技術者やビジネスマンを含め、25万人以上のロシア国民が国外へ脱出していた」という。

その一方でメディアは沈黙を強いられている。「『特別軍事作戦』と呼ばずに『戦争』と言っただけで、禁錮15年の刑」を食らいかねず、「ロシア軍の蛮行については何も伝えられない」状況だ。

ウクライナの現状を知り得て、国外脱出しなかった人々は戦争反対を叫び、デモに出るものの、多数の逮捕者を出すなど、厳しい当局の弾圧に遭っている。独立系のわずかなメディアを除けば、ほとんどが国営で当局のプロパガンダばかり。メタ(フェイスブック)などSNSも遮断された。

当局発表信じる人々

そうした中で一般のロシア人はどうなのか。「表面上、一般人の生活は劇的には変化していない」とし、「ロシア人の多くは国のプロパガンダを信じ、ウクライナ侵攻を支持している」と書く。

情報が遮断され、言論が統制され、当局の締め付けがきつくなる。密告や秘密警察が暗躍したソ連時代そのものだ。そして「プーチン支持か反プーチンか」で国民は分断される。家族の中で、友人との間で、人間関係が壊れているという。「ウクライナ侵攻に抗議する人々の家のドアに、『敵』や『売国奴』と書かれた大きな黄色いステッカーが貼り付けられ」たり、親しい友人とウクライナのことを話した翌日「売国奴」と怒鳴りつけられたりするのだ。

これでは到底、ロシア国民が政権を倒す革命など起こせる状況ではない、というのが伝わってくる。

ただ、ラトビアに逃れて独立系ニュースサイト「メドゥーサ」の編集をしているアレクセイ・コバリョフは「プロパガンダはこうして作られる」の記事で、「政府系メディアしか見ない人は、おそらくロシア人の70%がそうだが、戦争が起きていることさえ知らないだろう」と述べている。

ならば国民の半分でもいい。ウクライナの実態を知ったらどうだろうか。廃虚になったマリウポリ、民間施設への攻撃、女性や子供らへの攻撃と犠牲、これらがそのまま伝えられたら、頑固にプーチンの政策を支持している人々も考えを変えるかもしれない。

窮地の独立系サイト

情報戦で劣勢を跳ね返しているのがウクライナのゼレンスキー大統領だ。同誌のコラムニスト、グレン・カールが「歴史に残る名演説」と絶賛している。「ゼレンスキーは自国の危機を、演説するそれぞれの国の最も苦しい、そして最も決定的な瞬間と直接結び付けた」として、英国にはチャーチルの演説を引用し、米国には9・11同時多発テロを、日本には原発事故と津波、というふうに、聞く者に同情とともに、支援への道義的義務を感じさせた。

ロシアの人々にこの言葉を伝えるのにはどうしたらいいか。メドゥーサはクレジットカードが止められ、ロシア国内からの支援が来ず、運営難になっているという。国際社会がする支援のうちには、この面の努力があってもいいはずだ。(敬称略)

(岩崎 哲)

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