
犠牲拡大に橋下徹氏
ロシアのウクライナ侵攻から1カ月が過ぎた。当初、ウクライナは数日で攻略されてしまうと予測されていたが、露軍は苦戦し無差別攻撃を増し加えて民間人の被害が拡大、避難民も国内外で1000万人に上っている。
戦いが長期化するにつれて、海外メディアでは「ロシア・ウクライナ戦争」「ウクライナ戦争」と呼称されるようになった。わが国の各メディアでも両軍の装備の比較や戦闘など軍事的な評論、対露圧力の効果、停戦協議の展望などの議論が多くなされ、注目度も高い。
その中で、20日放送のフジテレビ「日曜報道ザプライム」では、レギュラー出演者の橋下徹氏がロシアのウクライナ軍事侵攻後の議論は専門家の戦況分析がなされるものの、「一般市民の、非戦闘員の犠牲が完全に抜け落ちている」と問題提起した。
戦争が長引けば都市が瓦礫(がれき)となり、避難民は住む場所を失い、死傷する国民は増える。橋下氏は「長期化すればロシアが困るのはその通りだが、ウクライナだって困る。…非戦闘員の犠牲をどこまで許容するのか」と述べ、停戦交渉にウクライナ側の妥結も必要ではないかと主張。
また、「市民の被害をどこまで許容するのか」という政治判断のため「明日死ぬかも知れない非戦闘員の気持ちをくみ上げる仕組み」の必要を訴えたのだ。方法としては電子投票を例に挙げていたが、戦時下の犠牲拡大の中で民意を問う仕組みを考えろというのはユニークな指摘だ。
難しい戦時下の民意
しかし、戦争がない日本の日本人的な問題提起にも聞こえた。ウクライナは4人に1人が国内外に避難し、攻撃によってインフラも破壊されて投開票の実現は困難な可能性が高いだろう。
これまでの報道からは、ウクライナで露軍との戦いに反対するデモは起きてないし、世論とはなっていない。露軍侵攻前は41%だったゼレンスキー大統領の支持率が、侵攻後91%になった。
ウクライナ人はナチス・ドイツのヒトラー、ソ連共産党のスターリンに支配された歴史がある。目下、露軍に包囲されているキエフ市のクリチコ市長は「服従して奴隷になるなら死を選ぶ」と発言している。丸腰の市民たちは街に侵入してくる露軍に出て行けと抗議し、抵抗するも無差別攻撃の被害に遭って避難している。
戦時下の民意を問うことは、仮に方法があったとしても両刃の剣かもしれない。一つには司会の松山俊行氏が「民間人犠牲者が出るので早めに妥結をと言うのは、ロシアのミサイル攻撃の効果を認めるという意見になってしまう」との指摘だ。
逆もあり得よう。わが国の体験では、日露戦争のポーツマス講和に対して国民の不満が暴発し日比谷焼き討ち事件が起きた。太平洋戦争では敗色が濃い戦争末期でも「本土決戦、1億総玉砕」の空気の中で戦争を終わりにできず、最後は御聖断によってポツダム宣言を受諾し得た。
ゼレンスキー氏は、停戦交渉をめぐり国民投票に言及している。特にロシアが占拠している地域の扱いについてだ。しかし、プーチン露大統領が要求する条件①ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)非加盟による中立化②非武装化③ロシアのクリミア半島併合承認、「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」の独立承認―などで折り合いがつかない。
政治家だけと宮家氏
仮に国民投票が行われてもロシア側の条件を拒否する民意が示されるかもしれないし、ロシアが妥結するかも分からない。戦況や問う時期によっても変化するだろう。
結局、橋下氏の問題提起に、元外交官で内閣官房参与の宮家邦彦氏は、停戦条件を受け入れるか受け入れないかなど「中長期的な戦略的利益は何かを判断できるのは政治家だけだ」との見解を示した。日本は有事の場合、民間の犠牲拡大にどうするのか。(窪田伸雄)