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ウクライナ事態、最悪のシナリオを予想も回避策は書かぬポスト・文春

戦争反対のプラカードを掲げる子供
戦争反対のプラカードを掲げる子供

限定核使用の可能性
ロシアのウクライナ侵攻から3週間余り、膠着(こうちゃく)状態を打破するためにプーチン(露大統領)は核のボタンを押すのか。この最悪のシナリオについて、週刊ポスト(4月1日号)が伝えている。

今回のウクライナ事態でこれまで最も信頼性のある情報と分析を出しているのが東大先端科学技術研究センター専任講師の小泉悠だ。彼はロシア参謀本部が出す「軍事思想」を引用して、「限定核使用」という考え方を紹介した。

核を使うケースとして二つが予想される。まず「ロシアが負けないうちに戦争を終わらせる」時、もう一つは「勝ってはいるけれども、続けると米国などの大国が参戦して負けてしまう状況」だといい、現状はこの二つともが当てはまるという分析だ。

ではどこに核ミサイルを落とすのか。「脅しだけが目的なら黒海上空で1発だけ落とすとか、ウクライナの誰も住んでいない平原に落とす」(小泉)ことが考えられるという。

だが、ロシアが核を使ったとして、他の核保有国、特に米欧は黙っているだろうか。小泉によれば、「トランプ政権時代に改訂された米国の核戦略文書(NPR)」では、「ロシアが核を使えば、アメリカも撃ち返す」ことになっているそうだ。

現状では、核戦争に発展する懸念があるから、北大西洋条約機構(NATO)は軍事的対応をしていないわけだが、このままロシアが攻めあぐねて、状態を突破するために、限定的に核を使えば、バイデン米政府はとんでもない選択を迫られる、ということになる。

強い対応が難しい米

しかし、ここでバイデンは強く出られるかが問題だ。外交ジャーナリストの手嶋龍一は、同誌に「バイデン大統領はプーチンの殺戮を止められない」の原稿を寄せ、バイデンのミスと誤算がウクライナ事態を招いた一因だと批判、プーチンは「バイデンの弱腰につけ込み、いまも侵攻を続けている」として、強い対応が難しいとの見方だ。

かつて、ケネディ(米大統領)は1962年のキューバ危機に際して、「核のボタンに手をかけることも辞さないと決意を固めたことでクレムリンの譲歩を引き出し米ソ核戦争は回避された」(手嶋)が、バイデンのこれまでの対応を見れば、核戦略文書の手順を守れそうもない。

ところが、実際にプーチンが核を落として、これを西側が黙って見ていれば、恐ろしく誤ったメッセージを与えることになるし、世界の戦争の概念が変わってくる。核は「使えない兵器」ではなくなるのだ。核使用だけは避けなければならないが、その妙案は手嶋でも、小泉でも示すことはできない。

週刊文春(3月24日号)では、軍事ジャーナリストの世良光弘が、「プーチンが理性的判断力を保っている保証はなく、躊躇なく使っても何ら不思議ではない」とし、戦術核を「都市に投下することも十分ありえます」と恐ろしいことを言っている。

最悪のシナリオはこれ以外にも、原発への攻撃、核使用を契機とした世界大戦への発展などを同誌は予測して見せるが、回避策については取材していないのか、それとも誰も回避策など思い付かないのか、書かれていない。

妥協点を探るNW誌

陸続きで、戦禍を身近に感じる欧州の関心を反映してか、ニューズウィーク日本版(3月22日号)は特集の中で「世界を揺さぶるウクライナ400万難民」の記事を大きく報じている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は15日、ウクライナ難民が300万人を超えたと発表した。

同誌では「核投下」などという極端なシナリオへの言及はなく、大量の難民という直面する問題への対応と、いかにして「戦争を終わりにするか」により多くの誌面を割く。もはや正気を失ったかと思われるプーチンでものめる妥協点を探ることの方が現実的なわけで、欧州と日本の関心の差が出た編集だった。
(敬称略)
(岩崎 哲)

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