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在宅医療と病院勤務の医師たちの実情を映し出した朝日とSPA!

病院のイメージ
病院のイメージ

寄り添える訪問看護
埼玉県で1月、在宅医療に尽くした医師が利用者の家族に殺される事件が起きた。週刊朝日3月4日号では「なぜ、在宅死がいいのか」と題し在宅医療を実践する医師5人に聞いている。

在宅医療33年歴の小笠原文雄さん(内科医)は70歳代の男性の末期がんを在宅で見送った。「亡くなった顔がとても穏やか。夫を見守る奥さんの笑顔もまた、穏やかなものでした。病院での死は『死ぬときは苦しいのが当たり前』、遺族にかける言葉は『ご愁傷様』です。その世界しか知らなかった私は、この穏やかな死のあり方に『なんだこれは』と強い衝撃を受けたのです」と。

45歳で四万十川が流れる高知県南西部の町に移り田舎医師として25年の小笠原望さん。「(以前勤務していた病院では)『患者の死は医療の敗北』という雰囲気がありました。助かる可能性のある命にはとことん頑張る」。ところがこの町で看取(みと)ったある患者の家族が、「鳥のさえずり、窓をたたく風の音、母が茶碗を洗う音、その中で父は最期を迎えました」と言うのを聞いてハッとさせられた。以来、「医療者はなるべくお節介せずに、命の流れについていく。人の命も自然の中のもの」と肝に銘じ、実践している。

正看護師の大軒愛美さん。かつて勤務した病院では「慢性的な人手不足もあり、医療者は余裕がなくなりがちでした。患者さんと看護師との関わりはわずか数分」「訪問看護という仕事に携わるようになってから、きちんと患者さんに『寄り添えている』という実感を初めて持ちました」と述懐する。どの医師、看護師もその志の高さは実に見事というしかない。孤高の医業ぶりといっていいかもしれない。

患者がモンスター化

一方、週刊SPA!3月8日号では「患者がモンスター化 病院内[暴力トラブル]の実情」と題し、病院勤務医師たちの受難について言及している。トラブルを仕掛けるような患者「モンスターペイシェント」の横暴がさらに度を増しているという。記事によれば、ある民間会社の調査で患者やその家族から暴言や暴力、過度な要求やクレームを受けた経験がある医師は2人に1人だという。

患者とのトラブル解決に携わる元大阪府保険医協会の尾内康彦氏は「(医師が患者から暴力被害を受けても)『隙があったのではないか』と逆に被害スタッフが責められる(略)被害に遭った医療従事者の多くが泣き寝入りしている」「(患者に)病院のことを“治療を提供してくれるお店”のように見なす誤った考えがあると(略)逆恨みや憎悪の対象になってしまう」と。「(医師は勤務する病院を)見限って転職する傾向がある」というトホホな職場環境と言えそう。医師側の苦闘ぶりがうかがえる。

在宅医療者の生きがい(朝日)と苦悩の勤務医(SPA!)。在宅医療では医師に付く看護師、患者側の家族、それに代わるサポート役に恵まれないと、その理想に近づくのはかなりむずかしいことも記事から読み取れる。医師一人では診療の段取りをつけるのすら難しい。家で患者をケアする人の存在も大きい。

一方、病院勤務では、病院は患者なら基本的に誰でも受け入れてくれる公共施設のような存在。公益性を満たすのに医師たちは一定数の患者を制限された時間で診なければならない。その扱いに不満を感じる患者の暴発も少なくないということだ。

過渡期迎えた現医療

二つの記事は、現代医療が過渡期を迎えており、ある意味、混乱の中にあることを映し出しているとも言える。つまり今の医療は、医師側―患者―家族やそれに代わる介護者など、その三位一体の関係が整ってこそ十全だということだ。

そう見ると、今日、患者本人のためでもあるが、家族のための医療であり、それをもっと拡大すれば地域のための医療を目標としなければならないということになる。それらを担うべき医師たちの思案のしどころだ。(片上晴彦)

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