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ロシア正教徒としてのプーチン氏の“聖戦”を読み解く新潮・佐藤優氏

プラカードを掲げる子供

非共産ソ連復活狙う
ウクライナ戦争を遂行するロシア大統領ウラジミール・プーチンとは何者なのか。世界中の非難をものともせず、冷酷にウクライナを蹂躙(じゅうりん)し続ける神経は常人の理解を超えている。何が彼を突き動かし、どこでそれが満たされ、いつ侵攻が終わるのか。プーチンを動かす“哲学”に目を向けた記事を週刊誌から拾ってみる。
「ウクライナ戦争」を特集したニューズウィーク日本版(3月8日号)

で、元米中央情報局(CIA)工作員で同誌コラムニストのグレン・カールは、プーチンが目指すものを、中部ヨーロッパにおける「ロシアの優位と世界的影響力の再構築」であり、「世界3大強国の1つにふさわしい地位をロシアが回復すること」だと指摘した。その目的を達成するためには、世界からどう見られようがお構いなしというわけだ。

プーチンを「欧米の個人主義を敵視する哲学の信奉者だ」とし、「専門家は、このロシア特有の反欧米的哲学を『ユーラシア主義』と呼ぶ。(略)個人を国家の大義に従属させる点に特徴がある。ピョートル大帝の啓蒙主義や欧米の個人主義、さらには共産主義をも否定し、それらがロシアを破滅させたという立場を取る」と説明している。

週刊新潮(3月10日号)で元外務省主任分析官で作家の佐藤優は、「プーチン自身は狂人でもなければ、郷愁に囚われたナショナリストでもありません。24時間、国のために働くことができる国益主義者であり、典型的なケース・オフィサー(工作担当者)です」と分析する。

そして、「彼が目論んできたのは非共産主義的なソ連の復活です。つまりベラルーシ、ウクライナ西部、トランスコーカサス、そしてカザフやキルギス、タジキスタンなども勢力圏に置くというもので、それがあるべきロシアの姿だと考えています」という。

プーチンが北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を極端に嫌う背景には、安保上の理由の他に、欧米の個人主義からくる“堕落”思想に対する嫌悪もある。

東方正教圏で綱引き

週刊文春(3月10日号)でも、朝日新聞モスクワ支局長・駒木明義が、「彼(プーチン)はソ連崩壊前から祖国の将来を憂え、現実に絶望していました。アメリカに抗しうる超大国の崩壊は、彼の大きなトラウマとなり、のちに病的なまでに大国主義に固執するきっかけともなったのです」と指摘している。

プーチンの守るべきロシアとは何であり、その守護者は誰かだが、駒木は、「国家像の源流は、ロシア帝国にある。ロシア正教を後ろ盾にした政教一致の絶対君主は、『現代の皇帝』」だという。鋭い分析である。

佐藤は新潮で、「19年1月にキエフ府主教がモスクワ総主教庁から独立し、イスタンブールの総主教に帰属したことも、看過できない悪であると映った」ことを指摘している。「正教はロシアに不可欠なアイデンティティの一つ」だと。

プーチンを理解するキーワードの一つが「ロシア正教」であり、この点を理解できる日本の評論家は少ない。同志社大神学部を出た佐藤は、東方正教圏で起こっている、これもNATO加盟に似た「西側につくか、東側につくか」の綱引きを見逃していない。

332年間、ロシア正教の管轄下にあったウクライナのキエフ総主教が分離独立し、コンスタンチノープル総主教庁の承認を受けウクライナ正教会となった。ウクライナ正教が“西側に行った”のであり、これは5歳で洗礼を受けたロシア正教徒であるプーチンにとっては許し難く、失地回復はまさに“聖戦”なわけだ。

欧州の価値観に挑戦

小紙のウィーン特派員小川敏は、ウクライナ教会の対外関係部門の責任者ボリス・グジアック大司教が、「ヨーロッパの価値観と原則に対する戦争」だと述べていると伝えてきた。つまり、逆に見れば、正教徒プーチンはまさに「欧州の価値観と原則」に挑戦しているわけである。

プーチンの蛮行を擁護するつもりは全くないが、彼の心理にこうした側面がある、とは貴重な視点である。
(敬称略)
(岩崎 哲)

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