経費の圧縮が課題に
2024年までの運用が決まっている国際宇宙ステーション(ISS)について、それ以降、わが国はどう対応するのか。
前回の小欄では、H2Aロケットに代わる基幹ロケットH3の開発遅れに読売だけが社説を掲載して危機感を表明したことを記したが、今回のISS運用延長の問題でも読売だけが社説を掲載して、月探査に向けた新技術を育てる拠点としての活用を説いた。同紙の宇宙開発・政策に対する関心の高さに改めて敬意を表したい。
ISS運用については、昨年11月に200日のISS長期滞在から帰還した星出彰彦さんが4日に、帰国後初のオンライン会見を行い、「実験の幅も広がり、インフラも更新されている。まだ使えると思っている」と語り、一層の活用を求めている(5日付本紙など)。
星出さんの意思表明は、米国が既に30年までの延長方針を示しているのに対して、日本は継続参加を検討中の段階で方針がまだ明確でないからであろう。
さて、読売だが、同紙はこれまで日本は、日本人飛行士7人を長期滞在させ、有人宇宙開発技術を高めてきた経緯があるとして、「引き続き中核メンバーとして参加していくのが順当だろう」と指摘する。
参加継続に当たっては、もちろん、課題もある。日本だけで年間約400億円ともいわれるISS経費である。
日本は米国が主導する月面有人探査「アルテミス計画」に参加を表明しており、さらにこのISS経費である。読売は、この経費を「圧縮し、月面探査のための予算をいかに確保するか」と問い掛けるが、その通りである。
既存施設活用が適切
ISSは日米欧露などが共同で運営しており、国際協調の象徴でもあるが、最近のウクライナ情勢をめぐる米露の対立が激化すれば、ロシアが脱退する事態も予想される。読売は今後も平和的な国際ルールに基づく宇宙開発が望まれるとして、「ロシアには慎重な判断を期待したい」とするが、同感である。
日本が参加を表明しているアルテミス計画は、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)のほか、欧州宇宙機関(ESA)やカナダ宇宙庁(CSA)なども参加し、24年に月の南極に有人着陸、28年までに月面基地建設を目指すというもの。
ISSは地球の高度400キロを周回しているから、読売社説が冒頭で強調するように、「人類が月や火星の探査技術を磨くには、既存施設の活用が現実的だ」というのは極めて妥当な指摘である。
もっとも、アルテミス計画が対象とする月は、地球から約38万キロもあり、ISSと比べると、はるかに遠い。同紙は、探査を本格化させるには十分な準備が必要で、計画の遅れもあり得るとして、「月探査のための新技術を試し、民間企業を育成するための拠点としてISSを守る必要がある」と訴えるが、その通りであろう。
JAXAは現在、宇宙飛行士を募集中である。採用される新たな飛行士は、アルテミス計画で実施される月面着陸、基地建設の要員として、日本人として初めて月面に立つことも予想される。日本のISS運用延長と無関係ということはないであろう。
要注意の中国の動き
ただ、経費も確かに大きな課題だが、重大なのは24年までの運用を延長しなかった場合に、日本が「技術を維持する場を失う」(読売)恐れがあることである。
それというのも、最近の中国の宇宙開発への目立った動きである。中国は独自の宇宙ステーション「天和」を打ち上げ、自国の飛行士を常駐させている。「ISSを放棄すれば、中国のステーションが宇宙で唯一の施設になりかね」(読売)ないからだ。
まだ少し先のことだが、決して無視していい懸念ではない。産経や本紙などでも運用延長支持の論評がほしいところである。(床井明男)