主エンジンに不具合
わが国の現行主力ロケット「H2A」の後継機として、開発が進められている新型ロケット「H3」の開発が遅れている。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)はこのほど、今年度内に予定していたH3初号機打ち上げの延期を発表。主エンジン「LE―9」に新たな不具合が見つかったためで、これで延期は2度目、新たな打ち上げ時期も未定という。
今回の事態に、社説で論評を掲載したのは、これまでに1月30日付の読売1紙だけ。次期基幹ロケットの動向だけに、もっと関心があっていいと思うのだが、実に寂しい限りである。というより、読売の真摯(しんし)さを素直に褒めるべきか。
H3ロケットは、JAXAと三菱重工業が開発し、当初は2020年度中に初の打ち上げを予定していたが、20年5月の燃焼試験でエンジンに燃料を送り込むポンプのタービン羽根に金属疲労によるひびが見つかり、1年延期になっていた。
JAXAによると、1回目の延期の原因となった不具合は解消のめどが付いたものの、新たに別のタービン部品の振動による問題が発生したため、再延期を決めたという。
読売は、「新たな打ち上げ時期も示せないことが、問題の難しさを表している」とし、「ロケットのエンジンは精密機器で、開発は容易でない」と開発の難しさを指摘しながらも、「新型ロケットの開発につきものの難関をなんとか突破してもらいたい」と熱いエールを送る。
受注競争出遅れ懸念
ただ、鼓舞するだけでいられる甘い状況ではないのも確かで、同紙は「開発がさらに遅れれば、世界的な受注競争に出遅れることが懸念される」と危機感も示すのである。
新興企業、特に米スペースX社の存在である。同社は度重なる失敗を乗り越え、安価なロケットを多数打ち上げられる体制を急速に整えている。
宇宙飛行士の野口聡一さんが国際宇宙ステーション(ISS)で20年11月から5カ月の長期滞在した際も、同社のロケットが使用されるなど有人輸送も手掛けている。「今や世界のロケット市場をリードする存在」(読売)なのである。
そもそも、H3は1回当たり約100億円掛かるH2Aの打ち上げ費用を半分の50億円に引き下げ、スペースX社のロケットなどと対抗できるようにとの狙いから開発が進められたからである。
そればかりではない。読売がさらに危惧するのは、「商業活動だけでなく、日本の宇宙開発計画全般にも悪影響を及ぼしかねない」ということである。
確かに同紙の指摘するのも尤(もっと)もで、日本の地球観測衛星「だいち3号」などの打ち上げはH3で行う予定になっている。これまでISSへ物資を運んでいた日本の補給船「こうのとり(HTV)」はH2Bで打ち上げられてきたが、新たな補給船「HTV―X」ではH3が、実績数を増やす意味でも打ち上げを担当することになっているのである。
「開発急げ」とハッパ
H2Aは現在の45号機までの打ち上げで97・8%、H2Bをも合わせると98・1%以上という高い打ち上げ成功率を誇る。こうした信頼性の高さから、英インマルサット社の通信衛星打ち上げを受注し、昨年12月に打ち上げに成功したが、海外顧客としては5件にとどまっている。コスト面でH3の開発が急がれる所以(ゆえん)である。
読売は今回の再延期について、「JAXAは、こうした高い信頼性を引き続き確保するためには、さらに時間をかけることが必要だと判断したのだろう」と一定の理解は示すものの、見出しの通り、「開発を急げ」とハッパを掛けたいということなのだろう。
同紙には指摘がなかったが、専門家にはスペースXが成功したロケット再利用の考え方がどこまで広がり、H3開発に今後どう影響するのか、気になるところである。
(床井明男)