脱イデオロギーの転換点に
9月13日投開票の沖縄県知事選で、保守系新人で前那覇副市長の古謝(こじゃ)玄太氏が当選し、同30日付で就任した。12年ぶりの保守県政は、イデオロギー対立から脱し、経済再生など実務で成果を出せるか。沖縄の問題に詳しい評論家の篠原章氏に聞いた。(聞き手・豊田 剛)

――沖縄で史上最年少42歳の知事が誕生した。
沖縄戦と最も縁が薄い知事が誕生した。従来の沖縄政治では「沖縄戦の記憶の継承」が強調されてきたが、行政実務においてその記憶に拘泥する必要はない。沖縄戦の記憶に縛られずに行政を率いる知事が誕生したことは重要な変化である。
復帰後世代の知事が誕生したことで、沖縄戦や復帰運動の歴史に根差した従来の不毛なイデオロギー対立から脱却する転換点になるだろう。
――古謝氏が着手すべき課題は何か。
知事が力を発揮すべき領域は、12年間の革新県政の下で停滞・放置されてきた地域経済の再生、県民所得の向上、独自の福祉・貧困対策、公的インフラ整備といった、県民生活に直結する実務・施策の再構築だ。沖縄の社会基盤の再生に取り組む必要がある。
具体的には貧困対策、離島ゆえの不便さの解消、保守県政で動き始めていた沖縄本島の鉄軌道導入が挙げられる。
安全保障面では、有事の際のシェルター建設を進めるべきだ。特に台湾と近い与那国島、石垣島、宮古島で整備を急ぐのが望ましい。
革新政権が終わった今、保守陣営は他者への責任転嫁を一切やめ、自らの政策と実行力で沖縄を再生させる自己責任を果たさなければならない。今後は「玉城デニー氏のせい」「革新のせい」という言い訳は一切通用しない。保守自らの政策と実行力が問われる自己責任の時代に入った。
――政府の沖縄振興策はどうあるべきか。
年々減額されてきた沖縄振興予算が、3000億円台に復活すると期待されている。しかし、金額ではなく使い道が問題だ。建設業をはじめとする深刻な人手不足に対し、人工知能(AI)を活用した生産性・効率性向上に取り組む必要があるだろう。
――基地問題など安全保障政策はどうなる。
辺野古移設や安全保障問題は、本来一自治体の県知事がコントロールできる範囲を超えており、防衛省や政府が責任を持って対処すべき仕事である。にもかかわらず、翁長雄志元知事と玉城前知事は基地問題に深く介入し、国との政治的対立に注力した結果、行政機能や地域経済を停滞させ、〝火傷(やけど)〟を負うことになった。

――古謝氏が勝利したポイントはどこにあったか。
選挙中盤、妻の亜希子さんが見せた必死で誠実なスピーチや、18歳の長女による応援演説が、それまで冷ややかだった保守系政治家や有権者を惹(ひ)き付け、勝利を決定づけた。
終盤には、玉城陣営から「古謝氏が知事になれば戦争に巻き込まれる」という批判が出た際、亜希子さんが「5人も子供がいる夫が沖縄を戦争に巻き込むわけがない」とスピーチし、玉城陣営の「平和の使者」アピールを打ち消した。
責任転嫁は通用せず
――3期目を目指した玉城氏の敗因は。
玉城氏はほとんど何もしていないという評価だ。旧弊が温存されてしまったままだ。積極的に関わったのは基地問題ぐらい。地元の中小企業・経済界からも「明るい未来を描いてくれなかった」といった不満が上がった。
翁長元知事が亡くなった後、単なる「革新陣営」と化していた「オール沖縄」の限界やほころびが露呈された。反基地運動の高齢化とともに、イデオロギー対立から客観的事実や実利を重視する「政治の正常化」が進みつつある。
従来の「オール沖縄」を支えてきた反基地運動や左派活動には若者の新規参入がほとんどなく、著しい高齢化が進んでいる。左派政治家の2世・3世にはカリスマ性や思想性は感じられない。イデオロギーよりも客観的な事実や実利を重視する若者の意識変化により、政治の正常化が進んでいく。

――地元メディアはオール沖縄県政寄りだ。学術界や平和団体、左派労組が対決姿勢を強めそうだが。
10年ほどのスパンで沖縄は変えられる。5年もすれば、高齢化によって反基地活動家が現場に出てこられなくなり、革新・反基地運動の波及力は著しく減衰する。
強硬な言動でマスコミと対立して追いつめられた兵庫県の斎藤元彦知事のような事例とは異なり、古謝知事は人当たりのよい穏やかな性格だ。批判を相手にしているようで、実質的には相手にせず、メディアのペースに巻き込まれない体制をつくることが重要。無用な対立を避けつつ、巧みに受け流す距離感が求められる。
篠原章(しのはら・あきら)氏 1956年、山梨県甲府市生まれ。批評ドットコム主宰。成城大学大学院博士課程後期修了(経済学博士)。大東文化大学教授、日本財政学会理事、日本地方財政学会理事などを歴任。主な著書に「外連の島・沖縄―基地と補助金のタブー」(飛鳥新社)、「沖縄の不都合な真実」(共著、新潮新書)。







