トップオピニオンインタビュー【連載】少子化の深層を探る(下)「育児の喜び」実感できる支援を、行政にできないことは民間に

【連載】少子化の深層を探る(下)「育児の喜び」実感できる支援を、行政にできないことは民間に

平成国際大学名誉教授・佐藤晴彦氏に聞く

 日本が少子化で直面している課題と対策について平成国際大学名誉教授の佐藤晴彦氏に聞いた。(聞き手・宮田陽一郎)

平成国際大学名誉教授・佐藤晴彦氏
平成国際大学名誉教授・佐藤晴彦氏

 ――少子化が進む現状をどう見るか。

 社会や経済に大きな影響を与えている。人が少なくなったため、小中高の児童・生徒も減少して廃校となる学校もある。地方では行政スタッフが不足し、機能しない所も出てきている。地域の維持ができなくなりつつあることは非常に深刻だ。

 世帯で見ても、1人世帯が多くなっている。普通の家庭では、親が年を取った時に子供が世話をするとか、年老いた夫婦でも妻が夫の面倒を見るということがある。

 1人世帯は、こうした家族としての機能が失われている。また、1人でいると病気になりやすい。内面的には、職場との関係しかないので、会社で何か言われた時にダメージが非常に大きいとうつ病になったりする。外面的にも、偏食が多く、健康にも大きく影響を与えるケースが見受けられる。

 人が少なくなれば需要が減るので市場が縮小し、経済の発展が遅れるようになる。世代別に見た場合、65歳以上の高齢者が多くなっている。また、一人一人は長生きしている。日本の社会保障体制は、生産年齢人口(15~64歳)が高齢者の面倒を見る仕組みになっている。健康保険料が高くなれば、現役世代の可処分所得が少なくなり、生活が苦しくなっていく。

 ――少子化の要因は何か。

 出産意図を持てるかどうかを考える際、さまざまなマイナス要因がプラスの要因を上回っている。マイナスというのは子育てする時の不安やストレス。1人か2人であれば産むが、3人はまず産まない。

 子供の生活費や教育費などの経済的負担が重い。日本全体を見た場合、子育ては素晴らしいと思っている人もいるが、マイナスに考えている人の方がはるかに多い。だから少子化が進んでいる。

 マイナスだと感じる2番目の理由は、会社の仕事と自分の生活とのバランスがうまく取れないということがある。最近はワーク・ライフ・バランスに配慮する企業もあるが、ワーク・ライフ・バランスをうまく取れたとしても、生活の中で自分を生かすための時間を確保できないのがストレスになっている。子育てばかりしていて、結局自分は何もできていないのではないかと思う母親が増えている。このため、子供をもう1人持ちたいと思えなくなっている。

 ――これまで政府はさまざまな少子化対策を打ち出してきたが、効果が出ないのはなぜか。

 ピントが合っていなかったからだ。政府の政策を概観すると、国民の要望に応える形でやってきた。しかし、行政にはできることとできないことがある。そのことを政府が分かっていない。

 政府の支援は児童手当をはじめ外面的、体系的なものが多い。だが、それだけでは足りない。問題は内面。両親が「子供を持ってよかった」と思えるようにしないと、若い人たちは子供を持ちたいと思わない。そこのところが見えていないので政策には限界がある。

 ――行政ではできないこととは何か。

 行政職員は子育ての相談に来た親に対し、机に向かい合って「悩みは何ですか」と聞く。だが、親はそういうやり方ではなく、スマートフォンなどで手軽に教えてほしいと思っている。子育ては手取り足取りケアしなければ、不安やストレスを軽減できない。これは民間の専門業者でなければ難しい。政府は自分の限界を認識し、民間と協力しながら対策を進める必要がある。

 ――少子化の流れを変えるにはどうすればいいか。

 これまでマイナスの側面ばかりにとらわれてきたので、これからプラスに転換する必要がある。大切なことは、両親が「子育てをしてよかった」という気持ちを持てるかどうかだ。子供を育てて子供から笑顔が返ってくればよかったと思う。あとは子供を育てて自分が父親、母親になれたという実感、父親と母親としての夫婦になれたという実感を持ってもらえるようにしないといけない。

 少子化対策を進める上で育児の喜びが鍵を握るということは政府の文書には書かれていないが、民間の育児支援企業のデータには示されている。それを政府がどのように取り入れるかが課題だ。

 ただ、政府が強制的なことをやってはいけないので、体験者が育児の喜びを小中高校で伝えることが大切だと思う。大人になってからでは遅いので、小中高生の時にある程度の方向性を持たせなくてはいけない。

 また児童・生徒に、独身主義は「わがままになるのではないか」という考えを示してもいい。独身主義者には、夫婦が中高年になっても、さりげなく会話しているやりとりや、映画で子供が親に向かって「ありがとう!」というラストシーンが、非常に羨(うらや)ましく思う人も多いという。若い頃は独身主義だった人も、後になって、知り合いが結婚してそれを見て羨ましく思うのであれば、自己中心的な考えだったと後悔するだろう。

 興味深いデータがある。兄弟が多い人は子供を持つ割合が大きい。なぜかというと貧乏に慣れているので、家庭を持った後も乗り越えられる。また兄弟間でのイザコザを体験しているので、社会に出てからもイザコザを克服できる。

 兄弟が多いと、悩みがあっても兄や姉に「こういう時はどうするの」とたやすく聞くことができる。だから育児でストレスや不安を感じても、気軽に友達に相談できる。こうした特長は貴重だと言える。


【略歴】佐藤晴彦さとう・はるひこ) 1956年4月、福島県生まれ。81年、東北大学卒業。86年、中央大学経済学部卒業。2002年、中央大学経済学博士課程修了。同年、早稲田行動科学研究所研究員。05年、平成国際大学法学部助教授。13年、同大学教授。22年、同大学名誉教授。著書に『子供を持つために何が必要か、そして求められている支援とは?』(アートヴィレッジ)など多数。

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