トップオピニオンインタビュー日中緊張の本質は中国内部抗争 戦後80年 東アジア情勢波高し~高市政権の国防政策を問う【世日クラブ講演要旨】

日中緊張の本質は中国内部抗争 戦後80年 東アジア情勢波高し~高市政権の国防政策を問う【世日クラブ講演要旨】

鍛冶 俊樹氏 軍事ジャーナリスト

かじ・としき  1957年(昭和32年)広島県生まれ。埼玉大学教養学部卒。1983年、航空自衛隊に幹部候補生として入隊。主に情報通信関係に携わり、1994年に1等空尉で退職。その後、軍事ジャーナリストとして評論活動を行っている。主な著書に『エシュロンと情報戦争』(文春新書、2002年)、『領土の常識』(角川oneテーマ21、2013年)など。
かじ・としき  1957年(昭和32年)広島県生まれ。埼玉大学教養学部卒。1983年、航空自衛隊に幹部候補生として入隊。主に情報通信関係に携わり、1994年に1等空尉で退職。その後、軍事ジャーナリストとして評論活動を行っている。主な著書に『エシュロンと情報戦争』(文春新書、2002年)、『領土の常識』(角川oneテーマ21、2013年)など。

 世界日報の読者でつくる「世日クラブ」の定期講演会が13日、オンラインで開かれ、軍事ジャーナリストの鍛冶俊樹(かじ としき)氏が「戦後80年 東アジア情勢波高し~高市政権の国防政策を問う」と題して講演した。鍛冶氏は、日中関係の緊張の高まりについて、実態は「中国内部の権力闘争だ」と指摘し、それに日本が巻き込まれていると解説。台湾問題については、日本の物流の観点からも台湾海峡は重要だとし、「台湾を救うのは日本の責務」と強調した。以下は講演要旨。

 東アジアの情勢は中国が問題。昨今の日中関係の原因は、高市早苗首相の国会答弁が「中国を怒らせた」という報道が圧倒的だが、これは正しくない。もともと、高市首相と習近平国家主席の関係はある意味で良好だった。10月31日の日中首脳会談では高市首相は物怖じせずに言うべきことを話し、中国側は凍り付いた。その翌日には台湾側の代表とも面会し、中国側は何も言えない状況だった。

 高市首相は会談から1週間後の11月7日の衆院予算委員会で、台湾有事で中国が武力行使すれば「存立危機事態になり得る」とすると答弁した。これは従来の政府見解を説明したにすぎず、踏み込んだ発言ではない。本当に問題なのは、中国の薛剣(せつけん)・駐大阪総領事の「その汚い首は一瞬の躊躇(ちゅうちょ)もなく斬ってやる」という外交儀礼を逸脱した投稿だ。国際法としては「ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)」として国外退去処分にするのが常識だが、日本はそうせず、「適切な対応を求める」とだけに留(とど)めた。

 中国外務省は、13日に初めて「14億の中国人民は決して許さない」と、答弁の撤回を要求し始めた。6日間も間が空いていることを考えると、これは「習近平の意思」であると言える。期間が空いていることから、習氏の怒りの本当の矛先は日本に向かっていない。

 中国側は中国国民に16日、訪日自粛を呼び掛け、19日に日本水産物の輸入を再停止した。これらの措置が日本に与える影響は限定的だ。中国は事を荒立てているようで、腰が引けていると言える。中国は日本と水面下で交渉していたのではないか。ただ、時間が経(た)った23日になって、中国の王毅外相が「日本はレッドラインを越えた」と発言した。ここから推測できるのは、習氏の怒りの矛先は中国内の親日派に向いていたのではないかということだ。米中電話会談の後に日米電話会談が行われ、中国の意向を米国が日本に仲介して伝えたこともそれを裏付けている。

 1960年代後半から70年代前半に起きた中国の文化大革命でも親日派が集中攻撃された。今回の一連の流れも、日本が攻撃されているように見えるが、実際は中国内部の権力闘争だろう。トランプ米大統領が韓国で習氏と会談していた時に、中国側の側近たちはおびえ切っていたと話している。いつ誰が粛清されてもおかしくない中国国内の状況を表している。中国は一見、強気に見えるが、内部で深刻な問題を抱えている。

 中国が実際に台湾武力侵攻をするかどうかは大きな問題だ。実は習氏は、経済の失速から今後、思うような軍拡ができなくなる可能性を考慮し、2023年7月に台湾方面を管轄する東部戦区を視察し、台湾侵攻を決断したという話がある。日本にも、密(ひそ)かに米国からその情報がもたらされた。8月8日に自民党の麻生太郎副総裁が訪台した際に、有志国に「戦う覚悟が求められている」と発言したのはそのような背景があったからだ。

 米国に情報が漏れたことを察知した中国は、どこから情報が漏れたのか探し始めた。米大使だったこともある秦剛外務大臣と、米国とのホットラインのあった戦略ミサイル軍の司令官が疑われ、両者は解任された。その後、李尚福国防相が解任され、24年には李氏と魏鳳和氏が共産党籍を剥奪された。25年に入っても軍高官9人の党籍が剥奪されるなど、今は台湾軍事侵攻できる状態ではない。

 中国の空母開発も期待外れだ。台湾は島国のため、海上封鎖されたらウクライナとは違って支援が難しい。支援をするためには中国軍の包囲を突破しないといけないため、戦争になる。

 台湾周辺海域においては空母は一番の戦力になる。いかに多くの飛行機を短時間に発艦させ、戦域に素早く戦力の投入を行えるかが空母には問われている。ただ、中国の空母について軍事専門家の間では疑問の声が出ている。

 中国の空母は性能が米国に劣る。艦艇から航空機を射出する発艦能力は、米国軍が2~3分で1機なのに対し、中国はどうも10分に1機のようだ。これでは6機編隊を組むのに1時間かかり、その間に最大1時間も空中待機する機体も出て、燃料の消費は著しいだろう。中国機が自衛隊機をレーダー照射した事件があったが、自国の発艦能力を見せたくなかったのが理由ではないだろうか。他にもエンジンの性能や航続可能時間などの問題もある。

 習氏は何に焦っているのかというと、政権の命運だろう。もともと中国の国家主席の任期は2期10年までだった。習氏は3期目も国家主席であり続けるため、台湾統一を公約として掲げた。実現できなければ解任されるのが筋だが、度重なる内部粛清で習近平派は多大な恨みを買っているため、解任されれば復讐(ふくしゅう)されることを避けられない。それを防ぐためにも、4期目も続ける必要がある。しかし、客観的に見ても、現状で台湾統一は厳しい。4期目就任を押し切るためには、有力者を片っ端から粛清する以外に習氏の取れる道はなくなった。

 仮に4期目も習氏が続投したとして、経済は崩壊し、若年層の失業率が異常に高い現在のような状態では、中国国民の心も離れていくしかない。かつてのソ連が崩壊したように、中国共産党政権の崩壊というのも現実味を帯びてきている。

 今後の懸念の一つは台湾だ。台湾の議会は親中派の野党が多数派となっている。今は中国に対し厳しい姿勢を取る民進党が政権を握っているが、今後、親中派の政権が誕生すれば、かつての香港のように一国二制度を受け入れる可能性が出てくる。中国の情報戦略は世論を変えるぐらいの力を持っているため、台湾世論がねじ曲げられて中国の統一に応じるかもしれない。

 米国からすれば、中国が武力で台湾併合を試みた場合は介入できるが、民主的な方法で中台統一されれば手出しできない。しかし、そうなってしまうと、台湾海峡は中国の内海となってしまうため、中国がいつでも海峡封鎖できる状態となる。日本の物流の8割が台湾海峡を通っているため、日本と韓国は非常に困ることになる。トランプ氏は、台湾海峡を一番に守らないといけない日韓両国が積極的な発言をしないことを不満に思っている。

 日本は防衛力を増強しないといけない。安倍晋三元首相が語った「台湾有事は日本有事」は、日本は武力介入するということ。しかし、今の法制度では、自衛隊は台湾有事に介入できない。憲法改正が必要になる。自衛隊の現在の状況を見ても厳しい。在日米軍がいる前提での活動しか想定されていない。また、自衛隊員は実際の戦闘が想定されていないため、戦死者が出たら困ることになる。戦死者を出さないということは、戦闘に参加できないということだ。隊員不足の深刻化も大きな問題だ。

 それでも、台湾を救うというのは日本の責務だ。日本の命運がここに懸かっている。

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