トップオピニオンインタビュー【連載】待ったなし!スパイ防止法(8)通信情報収集が防諜のカギ 米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問 ジェームズ・アンドリュー・ルイス氏に聞く(下)

【連載】待ったなし!スパイ防止法(8)通信情報収集が防諜のカギ 米戦略国際問題研究所(CSIS)上級顧問 ジェームズ・アンドリュー・ルイス氏に聞く(下)

 ――米国では1917年に制定されたスパイ防止法など法制度が整備されているが、中国によるスパイ防止にどの程度効果を上げているか。

 最も効果的だったのは、連邦捜査局(FBI)が防諜(ぼうちょう)により重点的に取り組むようになったこと、そして国家安全保障局(NSA)が中国のシグナル・インテリジェンス(通信や電波の傍受・解析)に注力するようになったことだ。

 これらを可能にする法的枠組みはスパイ防止法とは異なる。実際に防諜の実効性を高めているのは、FBIやNSAによる運用だ。

 これは日本にとっても課題になるだろう。警察庁は防諜において一定の成果を挙げている。しかし、米国のNSAに相当する組織が日本に存在するかどうかは疑問だ。その点については検討する必要があるだろう。

 日本が新設した国家サイバー統括室は、将来的にそのような実働組織になり得るだろう。重要なのは、法律そのもの以上に「何を実際に行うか」である。

 ――米国では、スパイ防止のためにどのような捜査手法や法的権限が認められているのか。

 特に重要なのが外国情報監視法(FISA)だ。これはもともと米政府が情報収集する際に、法律を遵守し市民の自由を保護する目的で制定された。今ではこれが防諜に不可欠なツールとなっている。

 これは裁判所が許可を与えることで、米国内のスパイの疑いがある人物に関する情報収集を認める仕組みだ。通常の犯罪捜査で令状を取得する手続きに近い。

 米国における防諜活動の成功の多くは、シグナル・インテリジェンスに基づいている。人々は電話やメール、メッセージを不用意に送ることがあるため、それらを観察することでスパイの存在を見抜ける可能性がある。もちろん他の手法も必要だが、中心的役割を果たしているのがFISAだ。

 日本が検討するべきは、乱用を防ぐ措置を取りつつ、どのような権限の下、潜在的なスパイに関するデジタル証拠の収集を認めるのかだ。これは極めて敏感な問題であり、プライバシー擁護派の強い反発も予想される。しかし、防諜を成功させるためには不可欠だ。

 ――そうした捜査手法の具体例は。

 まず、中国に向かう不自然な通信や動きが見えることだ。「これは興味深い、なぜこうなっているのか」と考える。例えば、中国への渡航が異常に多い、個人が中国と頻繁に金融取引をしている、あるいはメッセージのやりとりがある。こうしたものは、その人物をより詳しく調べるべきだという手掛かりになる。

 その段階でFBIを関与させて調査を進める。このようにして実際に米国で情報収集活動をしていた人物が有罪となったケースは幾つもある。最近では、中国出身の2人の水兵が米海軍に入隊し、カリフォルニア州の基地でそれぞれ摘発され、有罪判決を受けた。

 さらに奇妙な例として、中国人科学者がアイオワ州のトウモロコシ畑で、夜中に四つん這いになって遺伝子組み換え種子を採取しているところが見つかった事件もある。つまり、こうした不自然な行動を観察することが手掛かりになる。

 ――日本には特定秘密保護法があるが、その適用範囲は限定的で、刑罰も比較的軽い。これは防諜体制にとって問題か。

 米国のスパイ防止法は、より広範な対象をカバーし、刑罰も厳格だ。日本の特定秘密保護法を強化し、適用範囲を拡大する改正は有益だろう。しかし、あくまで法律の効果は、それをどう執行するかによって決まることに留意するべきだ。

(聞き手=アメリカ総局長・山崎洋介)

=終わり=

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