
国際社会で活発化する情報活動、特に米国と同盟国で問題となる中国のスパイ活動を防ぐ防諜(ぼうちょう)の取り組みについて、米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のジェームズ・アンドリュー・ルイス上級顧問に聞いた。(聞き手=アメリカ総局長・山崎洋介)
――中国のスパイ活動に対抗するため、日米はどのように協力できるのか。
米国と日本の間には強固な協力関係が築かれている。日本がセキュリティークリアランス(適性評価)制度を導入し、機密情報の保護を強化したことは、両国の連携促進に大きく寄与している。さらに、サイバーセキュリティーや諜報(ちょうほう)活動に関して定期的な協議が行われており、協力体制の強化に重要な役割を果たしている。
その中で注目されるのが、新設された国家サイバー統括室(NCO)だ。日本のサイバー政策は大幅な再編によって改善されつつあるが、これを米国との協力枠組みに組み込むには一定の時間を要するとみられる。
現時点で最も重要な役割を担っているのは自衛隊と警察庁である。ここにNCOとの新たな協力関係が加われば、情報交換を一層進めるための最良の仕組みとなり、日米の防諜協力はさらに深化すると考えられる。
――日本は「ファイブ・アイズ」(英語圏5カ国の機密情報共有の枠組み)との協力を強化すべきなのか。
かつてファイブ・アイズは強固な情報共有の枠組みとして重要視されてきた。しかし現在では、ニュージーランドの影響力は限定的であり、カナダも政治的摩擦から距離を置く場面が目立つ。結果として、実質的に「スリー・アイズ」とでも呼ぶべき状況だ。
日本にとってより現実的で重要なのは、米国とオーストラリアとの協力関係である。豪州は通信情報局(ASD)をはじめとする情報機関が強力で、防諜やサイバー分野で高い能力を発揮している。従って、日米豪の3国間協力を軸とした枠組みが一層重視されるべきだ。
――豪州では近年、中国のスパイ行為に対する警戒感が高まっている。
豪州はこの5年間で大きな変化を遂げ、防諜体制を強化してきた。中国が政治に直接介入した事例を受け、防諜により大きな重点を置くようになった。
連邦制の仕組み上、州政府が独自に権限を持つ場合があり、中国はその州政府を標的にすることもあった。対応は容易ではなかったが、豪州は制度面・運用面の改善を進め、その結果、具体的な成果につながっている。
――中国のスパイ防止のため日米が取り組むべきことは何か。
第1次トランプ政権期、米司法省は中国による経済スパイや知的財産窃取に対抗するため「中国イニシアチブ」を立ち上げ、連邦捜査局(FBI)と連携して捜査を強化した。米国はこうした取り組みこそ、再開するべきだ。
一方で、この施策は「中国人を標的にしている」「人種差別的だ」といった批判に直面した。しかし、中国によるスパイ活動の多くが中国人によって行われている以上、捜査対象を絞らざるを得ない。
日本にとっても防諜の優先度を高めることが急務だ。課題となり得るのは「シグナル・インテリジェンス」(通信や電波の傍受・解析)の活用である。米国では国内に300万~400万人の「微信(ウィーチャット)」利用者が存在し、主に在米中国人が本国との連絡に用いている。こうした通信を監視することで、不自然な行動パターンを検出できる可能性がある。
例えば、本人は見つからないと思って不用意にメッセージを下書きフォルダに残すことがよくあるが、実際には監視を逃れられない。国外から中国本土へ送られる通信を中国系アプリを通じて監視できることは、防諜上極めて重要な一歩となる。
日本の法制度上、同様の監視は可能と考えられるが、最大の課題は人員の不足だ。膨大な通信量に対応し、監視体制を持続的に維持するだけの人材を確保できるかどうかが問われている。
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