トップオピニオンインタビュー【連載】待ったなし!スパイ防止法(5)スパイ定義の「利益」検討を 元警視庁北京語通訳捜査官 坂東忠信氏に聞く(下)

【連載】待ったなし!スパイ防止法(5)スパイ定義の「利益」検討を 元警視庁北京語通訳捜査官 坂東忠信氏に聞く(下)

 ――スパイ防止法はどうしたら国民に理解され、受け入れられるか。

 政府のみではなく、私たち一人一人が対策しなければならない。テレビが主流メディアの時代は情報が一方向だったが、ネットは相互通行で、コメントという形でお互いの意見を確認し、国民の共感度を測ることができる。疑問に思ったら自分で調べ呼び掛け連携する力を付けるようにすることが大事になる。

 そういう意味では、今は一人一人が受信者でありながら発信者だ。ユーチューバーになったり、どこかにコメントを書き込むだけでも十分発信できる。海外勢力の支援を受ける情報操作元に、国民が騙(だま)されないように力を付けることが大切だ。

 ――中国政府は当然スパイ防止法制定に反対する。

 一般人を装いSNS投稿したり、あるいは自民党内外に働き掛けて同調圧力をつくるなど、反対のための働き掛けが生まれるだろう。中国以外にも北朝鮮、韓国などの周辺諸国やこれらとつながる議員や団体の動きも注意しなければならない。

 今は「スパイ=国の機関」という概念には収まらなくなっている。超国家規模の企業の産業スパイにも気を付ける必要がある。特に中国の企業・グループと国がつながっている。

 ――スパイ行為をどう定義付けるか。

 スパイ防止法では、逮捕の対象を、他国政府や海外組織からの指示によって活動する分子またはその協力者とすべきだ。さらにそれらが金銭、物資、精神的利益を得ていることがポイントで、対価としては金品の授受だけでなく精神的援助も含むべきだ。例えば原理主義者のように、「成功すれば天国に行ける」「神が喜ぶ」との狂信的理由から、わが国に破壊や死者を伴う工作を仕掛ける活動も「精神的援助」を得て支えられた犯行として、逮捕できる法が必要だ。

 ――法律を作った後は何が大事になるか。

 政治家が法を作って終わる話ではなく、私たち国民が各種連絡網を活用してスパイを防止することが大切。そして、スパイに利用されないことも法の制定と同じぐらい大切だ。人助けのつもりで自覚もないまま、スパイ行為に加担してしまうことがある。相手はプロであり、接触する相手の後ろには組織があり、チームワークでバックアップしているため、本人が無知な善意で始めた情報交換も、個人の償い程度では済まない状況に発展する。認識を持たねば巻き込まれ、人生を台無しにしてしまう。

 国防は「国家防犯」「国家防衛」「国家防災」の三つでワンセット。人を介した工作だけではなく、今や通信端末自体もポケット内のスパイになり得る時代であることを認識すべきだ。

 ――日本にこれまでスパイ防止法がなかった背景は。

 スパイ防止法は一時、統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の関連政治団体である国際勝共連合が中心となり、政界からは岸信介元首相、右翼活動家の児玉誉士夫氏、財界からは笹川良一氏らが共鳴して、スパイ防止法制定の流れができていた。しかし、韓国教会本部では李承晩政権時代から反日教育を受けた信者の増加が文鮮明総裁に影響を与え、北朝鮮との融和統一を優先して韓国の勝共連合を解散、さらに日本を民族共通の敵とする反日発言が出てきた。

 戦後、共産主義の無神論者集団と実力で戦っていた日本の勝共連合も、その中核にあった統一教会が北朝鮮におもねった本部の方針に従ったことで、スパイ防止法制定が頓挫したと教団の古参幹部の方(故人)から聞いている。そういう意味で、勝共連合には功罪両面があると言える。

官民で情報社会の防衛を

 ――スパイ行為を防ぐために一人一人が取れる行動は。

 行動としては、難しい線引きはいらない。日本に優先して他国を利する可能性のある行為、もしくは他国に比して日本を不利な状況に追い込む可能性のある行為。この二つを基準に判断してほしい。

 「可能性のある行為」と言うと野党は必ず文句を言う。例えば「大量破壊兵器の開発に不可欠な情報が盗まれた」という既遂の段階では手遅れだ。応用されれば多数の死者が出る要素は、「可能性」の段階で止める処罰規定が必要。だから他国のスパイ罪に関しては死刑を含め厳しい処罰規定がある。スパイは警察の公安だけで確保できるものではない。何らかの異常に気付いた国民から、通報などの協力あってこそであり、それが捜査の端緒となる。

 そのため、官民一致の情報社会防衛ガイドラインの構築が不可欠だ。例えば、ある一定の従業員を抱える企業は、①情報防衛を担当する責任者を置いて、月に1回は最寄りの警察署で講習を受ける②一定数の社員が年に1度、警察署主催の情報防衛セミナーに参加する③政府が提供する純国産ウイルスソフトにより企業ごとに防衛し更新を義務付ける④企業内外にスパイと疑うに足りる異常な動きを認めた場合は、通報することを義務付ける――などが考えられる。

(スパイ防止法取材班)

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