トップオピニオンインタビュー【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (4) 仏国立安全保障防衛研究センター上席フェロー 新田 容子氏に聞く(下)急務となる対中スパイ対策

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (4) 仏国立安全保障防衛研究センター上席フェロー 新田 容子氏に聞く(下)急務となる対中スパイ対策

新田容子氏

 ――インテリジェンスに関する国際会議に出席している立場から、中国が軍民融合政策を推進し、人海戦術的に各国で産業界の先端技術や、研究機関の技術を吸収して軍事転用する問題をどう見るか。

 米国が中国に厳しい姿勢でいるのはまさにそこだ。もともと米国は中国が嫌いなわけではない。しかし、ここに来て先端技術、そしてAI(人工知能)が窃取され、軍事に転用される。米国としては中国に負けられない。さらなる軍事力を持たないといけない。これが今の米国の動きだ。

 サイバー攻撃が日々起きてエスカレートしているのは事実。今後もっと情報が盗まれ、盗聴やサイバー攻撃が増える。したがってスパイ防止法が絶対的に必要になる。

 先日、国際会議のため米国に出張をしたが、中国のスパイ活動に対しての問題が一番に掲げられた。カナダも中国にターゲットにされ、危機感を持って対応しようとしている。海外も日本と同じような被害に遭っている。中国はあらゆる国の情報を盗み、軍事に転用しようとしている。

 ――対中国で主要各国の足並みはそろうか。

 現在、欧州は分裂状態だ。産業界で大変苦労している。中国の勢力図が欧州の産業界にも入り込んでいる。例えば、民主主義国として中国製品を買うなと言えない。中国のうまいアプローチで、安くてそこそこのいい質で、購買力が上がる。G7(先進7カ国)に限っていえば、親中だったドイツも車産業でEV(電気自動車)技術が盗まれているため、危機感を持つようになり、対策に動き始めている。

 しかし一方で、中国は国家として「一帯一路」構想を持ち、バラマキ外交をしている。お金を配って取り込んでいるため、世界が全然まとまらない。グローバルサウスもほぼ中国が手を伸ばしている。

 ――セキュリティークリアランス制度が導入され、特定秘密保護法が制定され、安全保障上の重要な情報にアクセスする人を厳選し、漏洩(ろうえい)に罰則を科して取り締まるようになった。外国のスパイ対策に効果があると考えるか。

 人材の育成にも関わる話だが、日本人がインテリジェンスについてどこまで正しい感覚を持っているのかと疑問に思う。効果はない。定義としては国内向けの話だ。機密に触れられる人をどうやって選別するのか。この判断に日本が長けているとは思えない。

 高市首相は「国家情報局」を立ち上げたいと発言している。専門的な人材の増員も検討しているが、対外的なオペレーションには専門的な知識や経験、訓練が必要で、プロを育て上げるのに時間がかかる。だからこそ早く手を打たなければいけない。スパイ防止法の議論は出ては消えを繰り返してきた。今やらなくていつやるのか。

 ――次期戦闘機を英国、イタリアと共同開発する件もあるが、将来、スパイ防止法がない日本は共同開発の仲間に入れないことはあり得るか。

 実際、そう揶揄(やゆ)されている。海外の外交官には日本にスパイ防止法がないことを知らない人たちも多い。G7で唯一ない国だから、この期に及んであり得ないという感覚だ。

 ――情報活動の中央組織がある方が望ましいか。

 絶対に中央組織が必要だ。公安は公安の管轄があるし、警察も警察の管轄があるし、内閣情報調査室もそうだ。その壁を取り払わなければ情報共有は難しい。対外的なオペレーションをしていくには、世界との情報共有も必要だ。例えばCIA(米中央情報局)が日本と情報共有をしたい時に、どこに話をするのかと問題になる。情報共有が一元化されていない。スピードの争いでもあるのに対応できない。

(スパイ防止法取材班)

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