トップオピニオンインタビュー【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (3)仏国立安全保障防衛研究センター上席フェロー 新田 容子氏に聞く(上)機密漏洩リスク高い日本 情報被害を受ける産業界 

【連載】スパイ防止法制定―公約化される背景 (3)仏国立安全保障防衛研究センター上席フェロー 新田 容子氏に聞く(上)機密漏洩リスク高い日本 情報被害を受ける産業界 

 にった・ようこ 防衛大学客員研究員として2016年2月までサイバー戦争概論の戦略の講義を担当。日本安全保障・危機管理学会ロシア部会座長、同学会上席フェロー。日欧安全保障プロジェクトメンバー、米、英、仏、独と連携するサイバーG5専門家会合委員などを歴任。17年より仏国立安全保障防衛研究センター上席フェロー。

 ――自民党と日本維新の会の連立政権政策合意書に「インテリジェンス・スパイ防止関連法制」の検討を開始し、速やかに法案を策定して成立させることが盛り込まれた。

 国内外で実際に被害が増えているからだろう。中国の影響を受けて日本の産業界が大きく損害を受けている。自動車業界のEV(電気自動車)技術情報の流出が例に挙げられる。一番つらいのは企業の人たちだ。一生懸命に働いた人たちが積み上げてきた技術をあっという間に情報を抜かれて、先に商標を登録してしまう。

 このほか国外でいうと、大きく報道され注目を集めたのは、中国に駐在する邦人製薬会社社員がスパイ容疑で逮捕された事件だ。中国で2014年の反スパイ法施行から日本人17人がスパイ容疑で逮捕された。駐中国日本大使は拘束されている日本人に面会はしたが、現在も5人が拘束されている。

 サイバー攻撃で日本企業が損害を受けているというニュースが連日のように報道されている。今やニュースはネット空間に一瞬で走り、国民は知る機会が増え、危機感が高まってきた。その国民の声を拾って政治家、政党も動きだしたのだろう。スパイ防止法を訴えることで選挙で票が集まると判断している。

 ――中国の脅威に対抗するため、ファイブアイズ(米国、英国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの機密情報共有の枠組み)と日本が連携する必要はないか。

 インテリジェンスで同盟国との関係強化を期待しているルビオ米国務長官もそのような考えだろう。ファイブアイズはとても大きな枠組みだが、見直しの時期が来ているのではないか。米国ですら多くのサイバー攻撃を受けている。ファイブアイズが形成された第2次世界大戦当時は、インターネットもないアナログの時代だ。

 ファイブアイズではない別の枠組みを作るという議論も一時期あった。しかし、現実の問題として日本にスパイ防止法がなく、海外からの信頼を得ることができず、情報共有ができないのは致命的だ。

 経済にも影響を与える。近年は日本企業でも海外投資家の存在がかなり高まり、重視されている。投資家たちは、実際に日本の経済力や技術がどんなに良くても、スパイ防止法がないと中国に流れるリスクを感じてしまう。

 ――欧米では中国のスパイが逮捕される事件がよく起こるが、日本でもスパイ活動をしているのではないか。海外に比べ逮捕される事例はあまりない。

 非常に歯がゆい。情報を盗む中国人が逮捕されないことを「なぜ」と思わないのか、政治家にも問いたい。野放し状態だ。日本はスパイを逮捕・捜査する法制がないから動けない。

 ――国立研究開発法人「産業技術総合研究所(産総研)」の研究情報を中国人研究者が中国側に漏洩(ろうえい)し、2023年に逮捕された。不正競争防止法違反容疑で起訴され、東京地裁判決は2月に執行猶予付き有罪判決と罰金200万円を言い渡した。これもスパイ活動ではないのか。

 産総研の話も非常に現実的な話だ。遠い話では全くない。企業や研究機関が被害に遭っても、日本が現在持っている法律ではそこまでだ。そこを変えない限りはどうしようもない。情報を抜かれていても、あるいは盗聴されていても、一定以上は捜査もできない。だから逮捕、起訴に至っても書類送検や有罪でも執行猶予で終わってしまうという現実がある。

 ――盗まれるのが悪いという性悪説的な考えがまかり通っている。

 中国は情報を盗(と)ったとしても罪悪感は全く持たない。報復するのを良しとするのが中国だ。被害を受けても、被害を受けた側が悪いことになってしまう。内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)ですら中国のサイバー攻撃の被害に遭って、情報を抜かれたこともあるという。本当に防ぐのは難しい。

 日本企業も生き残るため、さまざまな分野を開拓して多くの技術開発も進めているが、それもどんどん盗られている。中国からすれば日本は盗るものがまだまだたくさんある場所だ。

(スパイ防止法取材班)

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