
――今回の裁判が持つ意味をどう捉えているか。
この裁判は、私の個人的な名誉毀損(きそん)の問題に留(とど)まらず、4300人以上もの世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)の信者が被ってきた拉致監禁による棄教強要を二度と起こさないための裁判だと思っている。
今回の提訴で名誉毀損の対象となった鈴木エイト氏の発言の一つは、X(旧ツイッター)の次の投稿だ。
「反社会的団体からの脱会を望む家族と当該信者の話し合いを教団側が『拉致監禁!強制棄教だ!』と被害者面でアピールしているだけ」「反社会的団体による『被害者アピール』は取り上げる価値もなく『どうでもいい』こと」
また、今回の裁判で提出された陳述書で、鈴木氏は次のように書いている。「マインド・コントロールされている信者が自分自身で考えることができるように教団の影響が及ばない環境下などで話し合い」「そのような真摯な取り組みに対して統一教会側が一方的に『拉致監禁・強制棄教』などとアピールしています」
鈴木氏によるこれらの主張は「拉致監禁による強制棄教」を「保護説得による話し合い」と言い換えて拉致監禁を正当化する、家庭連合反対派がこれまで散々使ってきた論法だ。また、家庭連合を「反社会的団体」と決め付け、信者が「マインド・コントロール」されているから教団から隔離して救出しなければならないと強弁するのも、これまで反対派が共通して主張してきた。このような“歪(ゆが)んだ論法”により、今まで数多くの家庭連合信者が拉致監禁された。
従って、この裁判は単に鈴木氏による名誉毀損の裁判ではなく、拉致監禁を正当化し、その悲惨な被害実態にふたをしようとする、家庭連合反対派の“歪んだ論法”との戦いであるとも捉えている。
――強制棄教を目的とした拉致監禁は現在、全く行われていないのか。
激減したが、完全になくなったわけではない。具体的な事例としては昨年1月、20代男性信者が家族に拉致された。都内のマンション4階の一室に監禁され、棄教強要が行われた。家族でない第三者が関わっていたことが判明しており、同年2月に脱会届が送られてきた。
後藤裁判の全面勝訴は、拉致監禁の一定の歯止めになったと言われており、現に2015年に最高裁で勝訴が確定して以降、拉致監禁事件は激減した。しかし、今回の控訴審判決で裁判所は、信者を脱会させる側の供述だけを基に拉致監禁の事実を否定した。今の解散命令請求の流れと相まって、今後の認定の手本となるならば、先々、再び拉致監禁が蔓延(まんえん)することが考えられ、強い危機感を抱いている。
――最近は各地に拉致監禁の被害者団体が出てきている。
安倍晋三元首相の事件以降、マスメディアを通じて一方的な家庭連合批判が渦巻いた。現役信者の実態がよく知られないまま、理不尽な決め付けが進められ、「統一教会は加害者」という認識が世間で強まった。
一方で、家庭連合信者が受けてきた拉致監禁被害に関してはほとんど報道されない。しかも、解散命令請求の裁判において、文科省側から陳述書を提出した元信者の中に拉致監禁によって脱会した元信者が多数いることも分かっている。
家庭連合信者に対する拉致監禁問題を積極的に発信している、主の羊クリスチャン教会の中川晴久牧師の呼び掛けに応じる形で、各地で拉致監禁被害者がコミュニティーをつくり、声を上げ始めた。昨今の情勢の中で、一人一人の抱く憤りが噴出していると感じている。
声を上げ始めた監禁被害者
――噴出した声は広がるか。
ただ、拉致監禁、強制棄教は家族が実行に関わっているため、被害者が声を上げにくい構図がある。私の知るほとんどの被害者たちは、自分を監禁した親兄弟と何十年もかけて関係修復に努めている。ところが、安倍元首相の事件以降の報道の影響により、ようやく回復しつつあった親兄弟との関係が再び拗(こじ)れてしまうケースが増えている。多くの被害者が、声を上げることと関係修復の葛藤の狭間で苦しんでいる。
それでも、何とか拉致監禁の実態を知ってもらおうとXなどで自身の体験を投稿したり、街頭に立って人々に訴えたりする被害者が増えてきた。これからもどんどん出てくるだろう。
――監禁を伴う強制棄教は、どうすれば未然に食い止められるか。
拉致監禁被害者による真実の発信も大事だが、信者の親兄弟と信者がオープンな場で真摯(しんし)に話し合い、理解を深めることが何より大切だと思う。
これまで信者の親は、職業的ディプログラマー(脱会屋)たちから「子供が犯罪者になる」と脅されたり「あなたがたの育て方が悪かった」と非難されたりした。そして「隔離する以外に方法はない」と追い詰められた果てに、子供のためを思い、やむなく拉致監禁を行ってきた人が多いと思う。実際、拉致監禁によって親子の信頼関係が破綻し、多くの家族が崩壊した。この脱会屋が介入する構図がなくならない限り、拉致監禁の危険もなくならないだろう。
最近、米国でチャーリー・カーク氏が暗殺され、暴力で自己の目的を遂げるやり方が世界中から非難を浴びた。一人の人間を力ずくで閉じ込め、思想信条を破壊する「拉致監禁」もまた絶対に許してはならない。
(信教の自由取材班)





