国際勝共連合会長 渡邊 芳雄氏に聞く
冷戦後、残された文化闘争

共産主義に反対し愛国運動を展開した国際勝共連合は、このほど半世紀を越える活動を振り返り『勝共連合かく闘えり』(世界日報社刊)を出版した。同連合会長の渡邊芳雄氏に、活動を回顧した上で闘いの本質は何に集約されるのか聞いた。(聞き手=池永達夫)
――約半世紀にわたる勝共活動総括の本を刊行されたが、一番強調したかったことは。
2022年7月8日、安倍晋三元総理の暗殺事件があった。その3年の節目を執筆目標としながら出版を考えた。
国際勝共連合が設立されたのは、北朝鮮ゲリラによる韓国青瓦台襲撃事件があった1968年だった。
以後、約半世紀の間、共産主義との戦いをやってきたが、梶栗玄太郎元会長(1937~2012)が「共産主義に勝ち切れなかった」と回顧したのが、亡くなる少し前のことだった。
確かに東西冷戦は終わったかもしれないが、共産主義思想はしっかり残ったままだ。マルクスの考え方が再解釈を経て、変貌を遂げジェンダーフリー思想やLGBT権利運動、同性婚合法化運動などいろんなところに出てきている。
その意味で戦いは続いているし、思想面ではさらに先鋭化した戦いをしないといけないと思う。
共産主義の理想は、搾取や差別のない社会の実現にあるはずだ。
マルクスはそうした理想社会が、どうしたら実現できるか提示した。レーニン主義は暴力革命と一党独裁で集約される。一党独裁に反対するものは粛清対象にするやり方だ。イタリアのアントニオ・グラムシは、本当の共産主義はこれでは実現できないと、レーニンやスターリンが生きていた時代にはっきり批判した。グラムシは権力を奪取して文化を変えるというよりも、文化を変えることを同時並行か前にやらないと、共産主義革命も起きないし理想社会も実現できないと説いた。
このグラムシの考え方がフランクフルト学派など、いろんな形で広がりもっと大きな課題となっている。
冷戦時代にマルクス主義に感化された人はいっぱいいるが、現在では活動家はマルクス主義だとか共産主義という言葉を使わないで、いかに文化や家庭を破壊し宗教を排除するか、それなしに差別はなくならないという考え方や思想を全世界に浸透させている。それだけに、この文化闘争は深刻で非常に戦いにくく克服するのは困難だ。
――差し迫った課題は。
共産主義問題は、おそらく米中衝突という形で必ず到来すると思う。これが武力衝突の熱戦になるのか、外交で決着がつくのか分からないものの避けられない。
そういう深刻さが世界と日本にまだない。ただトランプ米大統領と同政権の人たちは、しっかりと米中衝突を前提にウクライナやガザや今回のイランの問題とかを取り組んでいて、最終的に中国の覇権主義をいかに阻止するかを一つの目標としながら動いていると思う。
日本のメディアはトランプ大統領をほとんどたたいているが、就任演説の「常識の革命」は文化破壊に対する対応だ。関税政策は、米国の製造業が中国や第3国経由によって完璧に空洞化していることへの対応だ。このままだと、いざ米中衝突の時、重要なものはすべて中国からでなければ手当てできないという危機認識がある。
だからトランプ政権の戦い方に非常に関心を持っている。
――トランプ氏は本気で中国と対峙(たいじ)する気はあるのだろうか。
一時的な思い付きではないことは確信している。トランプ大統領の核心部分は捉え切れないところがあるものの、信じてみたい気持ちはある。
――それこそトランプ氏以外にカードがない。
ロシア、中国、北朝鮮、イランが新しい枢軸を形成し、欧米を中心とする世界秩序への挑戦が始まっている。その中で最終的に残るのは中国だと米国は見ている。
欠かせないスパイ防止法
共産主義の克服を追求

――東アジアの安全保障には日米同盟の深化が欠かせない。
日米同盟を本当の同盟にするには、憲法改正しなければならない。「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」という憲法9条第2項の問題がある限り、フルスペックの集団的自衛権行使にはならない。
その憲法改正の前に、何としてもスパイ防止法を制定したい。スパイ防止法は日米が結束する上でも、とても重要な課題だ。
――ソ連崩壊にどう関与したのか。
勝共連合は世界に友好団体、メディアがある。欧州で共産主義の間違いを訴える動きもあったが、アメリカでレーガン政権を誕生させる上で連携できるところはやった。
「ソ連は悪の帝国」と言い切れるレーガン大統領が立った。初めてソ連が限界を感じて冷戦終結へ向き合わざるを得なかった大きな要因となった。レーガン大統領は、今でもゴールデンドーム(次世代ミサイル防衛構想)で継承されているSDI(戦略防衛構想)を打ち出した。その本気度がなかったらソ連は、これ以上やったら経済崩壊を来し、とても競争に勝てないと判断を下せなかったと思う。
国際勝共連合としては冷戦終焉(しゅうえん)においては、日本において民主連合政府を成立させず、日米の安全保障条約を質的に高め、米国との連携をさまざまな形で取れるように努力してきた。
――ソ連崩壊後、結局、ロシア人の多くの年金生活者は通貨の暴落とハイパーインフレで生活を脅かされ、そうした恨みが積もって今日のプーチン大統領を生み出したといえるが。
冷戦終結というのは決して共産主義に勝利したわけではない。ソ連を中心とした東欧圏という東側陣営がただ崩れただけだった。
京都大学教授だった猪木正道氏は「共産主義の系譜」の著作で、「マルクスは人類に対して命がけの問いかけをした」と書いている。マルクスは国と国が戦争し社会的対立が生じるのは、人間が持つ利己的欲望が背景にあるとみた。
結論から言えば人間疎外という言葉で、人間が人間らしさを失い利己的な人間になっている背景に、当時のキリスト教やユダヤ教を挙げる。いわゆる「宗教はアヘンである」というマルクスの言葉に集約されていく。
こうした宗教問題と資本主義制度の根幹である私有財産制度がある限り、人間は利己的欲望から解放されない。これが革命の根本的な動機になっている。どうやったら人間は利己的欲望を超えて、搾取のない差別のない社会を実現できるかという問い掛けだった。
京都大学教授だった勝田吉太郎氏が以前、勝共運動と関わった時、「あなた方は共産主義に勝つと言うけど、どういう人間が共産主義者に勝てると思っているのか」と聞かれたことがある。その当時の事務総長は「本当のキリスト者でないとマルクス主義者には勝てないと思う」と答えている。
すると勝田氏は「それなんだ。そこが分からないと共産主義に勝つことはできないんだ」と膝を打った。
梶栗玄太郎元勝共連合会長が言った「勝ち切っていない」というのは、思想戦や政治闘争の面もあるかもしれないが、マルクスが提示した本質部分の「利己心を超えているか」ということにおいて、不十分だったと思う。





