トップオピニオンインタビュー資産国日本のサバイバル成長戦略 政治評論家 高藤和昭氏に聞く【持論時論】

資産国日本のサバイバル成長戦略 政治評論家 高藤和昭氏に聞く【持論時論】

たかとう・かずあき 1946年11月25日、広島県賀茂郡生まれ。広島大学政経学部に学ぶ。同郷の政治家・谷川和穂(かずお)元法相、元防衛庁長官の秘書として政治的薫陶を受ける。政治塾「葛啓塾」塾長。
たかとう・かずあき 1946年11月25日、広島県賀茂郡生まれ。広島大学政経学部に学ぶ。同郷の政治家・谷川和穂(かずお)元法相、元防衛庁長官の秘書として政治的薫陶を受ける。政治塾「葛啓塾」塾長。
国際通貨基金(IMF)によると2025年の世界の名目国内総生産(GDP)で日本は、米中独印に次ぎ世界第5位となる見込みだ。かつて米国に次ぎ世界第2位まで上り詰めた日本の凋落(ちょうらく)ぶりが顕著だ。日本のサバイバル成長戦略を政治評論家の高藤和昭氏に聞いた。(聞き手=池永達夫)

――資金というのは、生き金もあれば死蔵されるものもある。

日本の総資産は、1京2649兆円。何が総資産になるかというと政府資産や金融機関の資産、非営利団体の金融資産だ。非営利団体の金融資産とは簡単にいうと民間の預貯金で、これが2179兆円。ついこの間まで1500兆円とかだったが、すでに2000兆円を超えている。国内外を含めた民間預貯金だ。

当然、負債もある。国全体の負債総額は8650兆円。分かりやすいのは国(中央政府)の借金としての国債で、約1000兆円程度、地方債が200兆円。これに企業の負債や個人負債を合わせて8650兆円。総資産から負債総額を引いたのが、正味資産となる。これが国富となり、約4000兆円だ。

世界には国富がマイナスになる国が多くある。そう考えると日本というのは資産国家だ。

ただその資産は政府が持っていたり、海外に流出していたり、企業の内部留保であったりする。この企業の内部留保は2年前に476兆円だったのが、今は600兆円を超えた。

こうした資産が生き金になっていない。それが問題だ。

資金はうまく循環して回って、少しずつでも増殖していくのが理想だ。「金は天下の回りもの」ではないが、金は社会にエネルギーと活力を与える。それが内部留保のような形で、投資もせずただ留(とど)まっていては死蔵された資金ということになりかねない。

日本の名目GDPは600兆円を超えたが、ドイツに越された。15年前には中国に越されている。日本はGDPで米中独に次ぐだけでなくインドにもその地位を脅かされようとしている。

――ドル換算だから円安が響く。

日本経済の体力からすると145円は円安過ぎる。115円から120円程度じゃないか。

個人消費はGDPの約60%を占める。だが高齢者が多く子供が生まれない。

個人消費と共に景気の両輪といわれる設備投資も、それほど伸びていない。それも海外に出ている。

貿易収支を見ると、日本は貿易立国だったもののコロナ禍以後、4年間、貿易収支は赤字になったままだ。25年は、1兆8000億円くらいになるだろう。輸入が多く、輸出が少ない。

足を引っ張っているのは、石油や天然ガスといったエネルギー関係の輸入だ。また、デジタル関係のスマートフォンや人工知能(AI)機器など年々、規模を広げている。

4番目は政府出資で、予算115兆円が入っている。そのうちの38兆円は福祉関係、国債の利払いや国債償還などの国債費が28兆円と、この二つだけで予算の半分以上を占めているものの経済の発展に寄与するものがほぼない。だから成長しない。

――どうすればいいのか。

日本の成長戦略の一つは、「産業のコメ」といわれている半導体の復活だろう。

日本の半導体は1988年には世界シェアの50%を占め、世界一の座を占めていた。それが今では台湾や韓国の後塵(こうじん)を拝する立場だ。世界の半導体市場の規模は、2030年には100兆円になるとされる有力なマーケットだ。

半導体の単位はナノメートル、1㍉の100万分の1の単位だ。現在、最先端は3ナノだ。ちなみに花粉の大きさが3万ナノだから、花粉の1万分の1ということになる。半導体の性能は、その内部を通る回路の細さ(回路幅)によって決まる。回路が細いほど小型化が可能になり、省エネ性能が向上し電力消費が少なくて済む。また、一度に処理できる情報量が増えるので半導体の処理能力向上が図れる。日本が進めようとしているのは2ナノだ。

いずれにしても政府による積極的な財政出動がなければならない。コロナ禍の3年間では100兆円規模の資金が手当てされた。このまま放置すればバブル崩壊後の経済低迷期という失われた30年がそのまま40年、50年と続くことになりかねない。

政府は方向を見定めたら思い切った政府主導の投資を行うことで、産業界をも巻き込みながら、海外へ流出が続いてきた資金を国内に回帰させる必要がある。コロナ対策関連費は負のダメージをゼロにする手当てだったが、ゼロをプラスに転じる未来を創出する手当てだ。

――「産業のビタミン」と呼ばれるレアアースの開発はどうか。

近年、南鳥島周辺の排他的経済水域内にある水深4000から6000㍍の泥質堆積物に、大量のレアアースが含まれることが注目されている。これを開発できるようになれば、資源小国日本の汚名を返上できる。

レアアースは半導体や電気自動車(EV)など先端産業にとって不可欠な元素だが、世界市場の約7割を握る中国が戦略資源として政治的に使っている。今回の米中関税戦争の際にも、中国はレアアースの輸出を規制した。先月、ジュネーブで開催された米中関税交渉も米国が中国に求めたのは、レアアースの輸出規制解除だ。

中国のバーゲニングパワーを封じるためにも、大量の埋蔵量を持つ南鳥島周辺の海底を掘削して精錬し、レアアースの安定供給に寄与するパワーを持つ必要がある。それによって先端産業分野の国際競争力確保が可能になるだけでなく、中国の西側諸国分断工作を防ぐことも可能になる。

――今月上旬、中国海軍の空母「遼寧」が硫黄島より東の海域で初確認されたが、「遼寧」は南鳥島周辺を航行した。

わが国のレアアース資源開発への牽制(けんせい)の意味があったのかもしれない。

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