「過去の痛みに向き合え」 中川晴久牧師
「教団は変わるチャンス」 小林宗一郎氏

中川晴久(なかがわ・はるひさ)早稲田大学第一文学部を退学後、教会に献身。2007年、主の羊クリスチャン教会主任牧師。キリスト者オピニオンサイト「SALTY」やユーチューブを通じ言論活動も行っている。
小林宗一郎(こばやし・そういちろう)1971年、東京都生まれ。世界平和統一家庭連合の現役信者で、過去に3度の拉致監禁被害に遭っている。現在は、監禁後に心に傷を負った被害者やその親と交流し、関係修復をサポートする取り組みをしている。
世界平和統一家庭連合(家庭連合、旧統一教会)に対する解散命令の審理が東京高等裁判所に移された。解散命令を決めた東京地裁の判断や教団が抱える課題について、拉致監禁・強制棄教(ディプログラミング)で分断された親子関係の修復に取り組む2人、拉致監禁被害者で現役信者の小林宗一郎氏と「主の羊クリスチャン教会」(横浜市)の中川晴久牧師に聞いた。(聞き手・宇野泰弘)
――拉致監禁されて棄教した人々が原告となった過去の裁判事例が、東京地裁の決定に影響したことについてどう考えるか。
小林 拉致監禁状態にあると正常な判断ができないし、中には「裁判はしたくない」と思っていても強要され、都合のいいように利用されてきた人もいる。そのような背景のある裁判を解散命令の根拠としていることは甚だ疑問だ。
――家庭連合は解散に値する団体なのか。
中川 地裁の決定文を読むと、何とか(不法行為の)継続性を示すために厚みを付け、理屈を付けていたように感じる。それは結局、継続性がなかったからであろう。解散命令は国策裁判と見るのが正解だし、「裁判は明らかにおかしい」と世界へ発信すべきだ。
小林 私は、(解散要件に)民事の問題が含まれたことを、教団が過去の不足を悔い改め、変わるためのチャンスとあえて捉えている。
――「悔い改め」とは反省や自戒の意味に近い。具体的には。
小林 私は拉致監禁の体験から、同じように傷ついてきた親子の関係修復に取り組むため、指導したキリスト教牧師や実行した親たちと向き合ってきた。その中で「教団」と「牧師や親」双方に思い込みがあることを感じた。教団は自分たちを反対・否定する声が「全て悪」と思い込み、対話する機会を自ら閉ざしてしまったように思える。
――教団は反対派からどう見られていたのか。
小林 「家庭連合は悪で、信者はマインド・コントロールされている」という親や牧師の思い込みが根底にあり、話が通じない状況が多々あった。
拉致監禁が横行した背景には、教団の伝道方法や組織運営などに問題があったからではないだろうか。そして今回の解散命令においても同様で、今に至るまでに「自分たちの中に問題はなかったのか?」と真撃(しんし)に見詰め直すことが必要だと感じている。
中川 家庭連合としては「多少無理してでも理想のために」という時代があったと聞いている。とはいえ、「まず家庭を大切にしなさい」という教えがある。過去の痛みがあるのであれば、それに向き合おうとすることが大切では。
――小林さんは、今では拉致監禁を実行した母親と和解している。
小林 母親は私に「みんなやられている、みんな被害者だ」と表現した。つまり親たちは騙(だま)されてきたということだ。続けて「それに気が付けばみんな分かるのにね」とも話した。
教団に対し、強烈に悪い印象を抱いていた親でさえ、じっくり対話し真実を伝えれば理解してもらえ、「騙されていた」と気付いてもらえた。世論に対しても同じことが言えるのではないか。