李在明氏は理念に関心なし

韓国革新系野党・共に民主党の大統領候補、李在明氏の外交・安保公約を作成し、李氏に直接報告している同党東北アジア平和協力特別委員会の田収米・副委員長はこのほど本紙インタビューに応じ、大多数の国民が反日なら反日カードを切る可能性もあると述べた。また李氏は理念に関心がなく、経済重視の外交を進めると明らかにした。田氏に日韓関係や外交・安保政策に関する李氏の方針を聞いた。(聞き手=ソウル上田勇実)
――仮に李在明氏が大統領に当選したら、どういう外交政策を打つか。
李候補の外交・安保政策は、共に民主党の国会議員で元ロシア大使の魏聖洛氏が率いる東北アジア平和協力特別委員会が担当しており、そこで私も公約などを検討している。外交・安保は魏氏が率いるとみてもらっていい。魏氏は反米でも反日でもなく、韓米日の関係を重視するだろう。
――日韓関係はどう構想しているか。
(徴用工問題に関する)第三者弁済は継続させるなど、両国関係にとっていいものは尹錫悦政権で行われたものであったとしてもそのまま実行しなければならない。プラスアルファや補完はあっても、基本的枠組みはそのまま維持する。国家間の約束は守らなければならない。
――プラスアルファ、補完策とは具体的に何か。
第三者弁済は方向性は理解できるが、韓国国民の支持を得難い側面もある。国民が依然として問題だと考えるなら、補完策を考えなければならない。もちろん歴史認識問題が現在や未来の協力を制約してはならない。
――李氏が魏氏との間で意見を対立させる可能性はないか。
李氏は、もう一人の外交・安保分野の補佐官となった金鉉宗・元国家安保室第2次長と魏氏を競争させようとしているようだ。金氏は強硬なスタイルで盧武鉉政権で締結した韓米FTA(自由貿易協定)の交渉責任者として有名になった。おそらくトランプ関税への対応で李氏は金氏を起用したのではないか。2人を競争させ、どちらが仕事で成果を上げるか李氏は見極めようとしているのだろう。
――韓国の歴代大統領は状況次第で反日カードを切ってきた。
国民の大多数が反日なら反日カードを切る可能性もあるが、今のムードはそうではない。韓国のテレビ番組で「韓日歌王戦」というのがあったが、日本の歌手が韓国のテレビに出演して日本の歌を歌い、好評を博す時代だ。尹政権の功績を敢(あ)えて探すとすれば、韓日間で韓国では日本に対する好感度がアップし、日本でも韓国に対する好感度がアップしたこと。こうした認識が広がっている中で、反日カードを切るのは容易ではない。
――李氏は実用主義を強調している。理念的政策にこだわらないか。
李氏は理念に関心がない。城南市長に当選した際、(革新的な)理念を持つ人たちが手伝ってくれた経緯はあるが、共に民主党に入ってから(左翼)学生運動出身者たちが周囲にいても、彼らは覇権的で権威主義なので、そういう面を嫌っていた。
――李氏の外交政策における関心事は何か。
今は経済とAI(人工知能)だ。昨年12月の「非常戒厳」宣布に伴う国の経済的損失を試算したら200兆ウォン(約20兆円)に達した。大統領になったらこれをどう埋め合わせするかが優先課題だ。だから外交も経済重視で臨むだろう。日本との間の歴史認識問題は経済ではない。
――今年は日韓基本条約から60年で、記念行事も行われるようだ。
まず日韓首脳間で電話会談をした後、首脳会談の日程などを話し合うことになるのではないか。(記念行事などは)双方の外交タイムテーブルを検討した上で決まるだろう。
対北路線は「戦争なき半島」
――李氏の公職選挙法違反容疑の上告審で李氏「有罪」趣旨の差し戻しが言い渡された。法律専門家としてどう受け止めたか。
政治標的判決だ。なぜ大統領選を目前に控え、こんなに判決を急ぐのか不安だった。しかも殺人罪など誰が見ても憤慨し許容できないようなケースに適用される全員合議体だったことも極めて異例だ。
――判決を受け、共に民主党内では李氏を候補にすることに異論はなかったか。
直後に議員総会を開いたが、以前浮上した候補交代論は出ず、李氏を推すことを確認した。何よりも李氏の大統領選出馬への意志は固い。
――差し戻しの大統領選への影響は限定的か。
選挙の形勢が揺らぐとまでは見ていない。
――韓国との対話を拒否している北朝鮮にはどうアプローチするつもりか。
南北関係は優先課題ではないが、取り組むとすれば、まず朝鮮半島リスクを減らす方向でやるだろう。金大中大統領が「戦争なき朝鮮半島」を目指したように。
――リスクを減らすには対話が必要になるが。
公式であれ非公式であれ対話はしようとするだろう。
――革新系の歴代大統領は北朝鮮指導者との首脳会談に前のめりだった。
金大中大統領の場合は北朝鮮が好きだったからではなく、戦争なき朝鮮半島を実現するためだった。個人的な考えだが、盧武鉉大統領や文在寅大統領は国益より北朝鮮と仲良くすること自体が目標だったようだ。李氏はその点、金大中大統領に近い。
――李氏は共に民主党を完全に牛耳り、独裁体制を敷くような印象すら与えている。
李候補は従来の韓国の政治家にはないタイプだ。地縁や学閥、人脈などを重視し、支持されたらその見返りを与えるのが韓国政治の常識だが、李候補は一切そのようなことを受け入れない。仕事をした人にはポストを与え、能力がなければ登用しない。手助けしたという理由だけで見返りを与えることはない。だから敵も多く、国会議員たちは戦々恐々としている。大統領になったら、これまで見ることがなかったことが起きるだろう。