トップオピニオンインタビュー「地上天国」についての説明と再考を 宗教学者・大田俊寛氏に聞く(中)

「地上天国」についての説明と再考を 宗教学者・大田俊寛氏に聞く(中)

負のイメージが地裁に影響

宗教学者・大田俊寛氏

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――オウム真理教の研究を行ってこられたが、宗教学からみて、家庭連合との根本的な違いはどこにあるか。

オウム真理教と家庭連合は大きく異なる宗教であるため、簡単に比較することはできない。ともあれオウムは、類例を探すのが難しいほど攻撃的な宗教だった。教祖自身が強烈な破壊衝動を有し、「シヴァ大神」という破壊神が崇拝された。殺人を救済と見なす「ヴァジラヤーナ」という教義も唱えられた。教団内部にはえり抜きの殺人部隊がつくられ、外部の敵のみならず、仲間の信徒であろうと躊躇(ちゅうちょ)なく命を奪った。

私自身は統一教会の研究を行ったことがなく、詳しいことは分からない。しかしながら、開祖である文鮮明氏に麻原のような破壊衝動があったとは思われない。どちらかと言えば「ハト派」の人物で、平和的な方法で世界をユートピアに変えていきたいと考えていたのではないか。しばしば短絡的に、オウムと統一教会を同一視する言説が見られるが、私には首肯できない。

友好団体の一つである国際勝共連合に関しては、銃砲店の経営が行われ、散弾銃で武装化した勢力が存在していたのではないかということが、一部で囁(ささや)かれている。それについても私には確かなことが言えないが、当時はむしろ急進的な左翼勢力の暴力性が際立っており、それと対峙(たいじ)していた勝共連合も、何らかの仕方で自己防衛しなければならないという思いに駆られたのではないか。こうした点については、当事者からの正確な説明が必要で、それを怠ると、過剰な危険視や陰謀論の温床になってしまう。

――教団側の問題点、改善すべき点は

私の理解している限りで言えば、統一教会の最も大きな目標は、「統一原理に基づく地上天国の建設」にある。文鮮明氏の活動が盛んであった1960年代から90年代にかけては、再臨主が存命である間に何としてもその目標を実現しなければならないという機運が高まり、家庭や社会からの反発を顧みず、運動に邁進(まいしん)した信者が多かったと聞いている。とはいえそれにより、身の丈に合わない高額な献金を行ったり、霊感商法・募金詐欺・正体隠し勧誘に手を染めたり、育児放棄が起こったりといった、一連の問題が発生することになった。

近年の家庭連合は、教団に対する理解を得るためにさまざまなPRを行っているが、私自身はその中で、「地上天国の建設」という中心的理念についてあまり触れられていないことに疑念を持っている。このテーマについて丁寧に説明し、一般社会との間で率直な議論が交わされない状態では、教団への理解が深まり、全体的なイメージが変わるということも起こらないだろう。

――家庭連合が2009年に発出したコンプライアンス宣言によって高額献金や霊感商法に歯止めがかけられ、訴訟件数も顕著に減少したが、裁判所の心証が変わらなかった。

教団の対策が一定の効果を発揮したことは認められるが、家庭連合に対する一般的なイメージを大きく変えるまでには至らなかった。

その理由としては、コンプライアンス宣言に基づく改革があくまで教団活動の表層部分に留(とど)まり、「地上天国の建設」「万物復帰」「蕩減(とうげん)条件」といった教団の基本的な考え方にどのような反省・変更が加えられたのかということが明示されなかった点が挙げられる。

そのため日本人の多くは、家庭連合に対して、「韓国を中心とする奇妙なユートピアを建設するために、日本から財産を収奪しようとする団体」というイメージを抱き続けた。

今回の地裁決定でも、コンプライアンス宣言後も過剰な献金が続いているのではないか、という懸念が示されている。これに対して教団は、献金被害が具体的な数字で示されていないことに反発しているが、私には、裁判所が心配する気持ちも十分に理解できる。その背景には、教団が人類救済や地上天国の建設という目標のために資金集めをしようとする傾向は、現在は一時的に抑制されているものの根本的には変わっておらず、信徒の人たちは潜在的な献金プレッシャーに晒(さら)され続けているのではないかという、一般社会から見た心配や不安があると思う。

大田俊寛氏の主な著書
大田俊寛氏の主な著書

過去の宗教の過ちなぞる懸念

――宗教団体にはある意味、高額献金が付き物だが、宗教学的に見て何が問題か。

宗教とお金の関係は大変微妙で、歴史的に振り返ってみても、大きなトラブルの原因となってきた。代表例としては、中世末期のキリスト教世界で起こった「贖宥(しょくゆう)状」(免罪符)問題が挙げられる。当時のカトリック教会は強大な権力を保持しており、贖宥状の発行によって信者の罪の償いを免除し、祖先の魂を煉獄(れんごく)から救い出すことができる、と説いた。とはいえこれに対して、人間の力・金銭の力によって救済が実現するのかという批判が起こり、宗教改革が発生し、激しい宗教戦争にまで突入した。

このケースと同じというわけではないが、人間の力・金銭の力を重視するという点において、統一教会が掲げた理想は、過去の宗教が犯した過ちをなぞってしまっている部分があるように見える。さらには、お金を集めて地上天国を建設するとまで言ってしまえば、目に見える具体的な結果を示さねばならず、それに対して不満を抱く信者も当然のことながら出てくるだろう。

開祖の文鮮明氏が2012年に亡くなり、初期からの熱心な信者たちも高齢化する中、果たして本当に地上天国は建設できたのか、その理想は現実を改善するための力を持っていたのかについて、冷静に検証するべきではないか。また統一教会は、こうした理想を実現するため、宗教のみならず、政治・芸術・学問・報道・実業などの分野にも進出し、数々の関連団体を持っている。これらの関連団体の性質や沿革、教団本体との関係についても、説明が圧倒的に不足しており、一般社会からの不審と不安をかき立てる要因になっているように思う。

(聞き手・豊田剛)

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