トップオピニオンインタビュー専門家チームで終活を支援 上手に生きて、上手に死のう!!お坊さんは死の専門家 終活スキルは必要不可欠 浄土真宗本願寺派称讃寺住職 瑞田信弘氏に聞く【持論時論】

専門家チームで終活を支援 上手に生きて、上手に死のう!!お坊さんは死の専門家 終活スキルは必要不可欠 浄土真宗本願寺派称讃寺住職 瑞田信弘氏に聞く【持論時論】

浄土真宗本願寺派称讃寺住職 瑞田信弘
たまだ・のぶひろ 昭和30年、香川県高松市生まれ。大学卒業後、県内の公立中学校・小学校の社会科教員を経て平成10年、父の後を継いで称讃寺の第15代住職に。終活支援団体一般社団法人「わライフネット」代表理事、NHKカルチャー高松教室講師、FM815「たまだ和尚のここらでホッと一息つきましょう」パーソナリティー。著書は『浄土真宗の智慧』『寺院経営がピンチ! 坊さんの覚悟』『死に方の流儀』(アートヴィレッジ)など。

国民の4人に1人が75歳以上という超高齢社会になり、「終活」が課題になっている。12年前に終活支援団体一般社団法人「わライフネット」を立ち上げ、医師や弁護士、司法書士、葬祭ディレクターらのチームで相談に応じ、各所で終活講座を行っている浄土真宗僧侶の瑞田(たまだ)信弘さんに実情を聞いた。(聞き手=フリージャーナリスト・多田則明)

――終活講座を始めたのは。

家族葬という言葉が使われだしたのは1990年代からで、葬式の規模が次第に小さくなり、遠い親戚や仕事関係者を招かなくなりました。かつては親が亡くなれば葬式や相続はこうすればいいという暗黙の決まりがありましたが、僧侶として四十九日や百か日、一周忌の法要に行くと、遺産相続のトラブルを目にするようになりました。

親子が別居して、子供が遠隔地に住んでいる場合、長男でも親の世話より自分の家庭を大事にしがちなので、遺産相続を巡りきょうだいが争うようになります。さらに結婚年齢が高まると、相続人が子育てに一番金のかかる50代だと、幾らもらえるかが相続人の伴侶も含め最大の関心事になったのです。そこで、遺産相続トラブルを何とかしたいと思い、12年前に終活支援を始めました。

近年、親の田んぼを相続したくないという人が増えました。親子別居だと、お金は欲しいが親の家や田んぼは要らないという。私の寺の檀家(だんか)は半分強が農地持ちで、子供たちも収穫などに手伝いに来ているのですが、相続はしたくはないと。檀家の多くは代々の農家で、仏壇には江戸時代からの位牌(いはい)が祀(まつ)られている昔からの共同体にお寺も支えられていたのです。農家が減ると、農地はいらなくなります。

浄土真宗の僧侶としては、亡くなると阿弥陀如来のお迎えで極楽に行けますよと言わないといけないのですが、夫を亡くしたおばあさんがおろおろし、残された人たちが問題を抱えているのを見ると放っておけない。終活について啓発しないといけないと思うようになりました。

 ――親も高齢です。

子供が遠隔地に住んでいると、親のけがや発病に気付かないことが多い。高齢の親を気にしてはいますが、目の当たりにしていないので意識から外れてしまう。一方、子供に迷惑をかけたくないという親も多いのです。

月命日にお訪ねし、足を痛そうにしているので、介護認定を受けているのか聞くと、「介護認定って何?」と言う。介護保険制度が始まってから25年で、40歳以上から介護保険料を徴収されているのですが、実情はまだそんなものです。そこで社会福祉協議会に連絡し、ケアマネジャーを派遣してもらう。わライフネットを始めてから、そんな事例が数十もあります。

 ――お墓の問題もあります。

自治会で管理している共同墓地にある門徒さんのお墓が放置され、管理費も払ってもらえないので何とかしてほしいという相談がありました。遠隔地に住む子供が親の家を壊して売地にし、仏壇も処分して位牌だけ持ち帰ったのですが、お墓はそのまま。親の家がなくなるのは、寺としては檀家が一つ減ることですが、それだけでは済まない。位牌やお墓に納められたご遺骨をどうするかです。

遠隔地に住んでいる子供は、親が亡くなった後、お墓をどうするかは親が元気なうちに相談しておいてほしい。ご遺骨は、地元のお寺に預け、永代供養してもらうか、自宅に持ち帰って新しいお墓に入れるかなど。親戚が墓じまいで困っているので、納骨場所を広くして血縁者は誰でも入れるようにした本家の人もいます。親戚みんなでお墓を守るのも一つの方法です。

 ――独居老人が増えています。

おばあさんが一人残されるケースが多く、訪ねると家の中が散らかり放題。足が痛いので、手が届く範囲に必要なものを集め、周りは雑然。骨折で入院すると、リハビリが終わっても帰宅できず、施設に入ることになります。独居者は身の回りを片付けておくことが必要で、できるだけ身軽になる。いわゆる断捨離で、元気なうちからそんな習慣を身に付けたいですね。女性に話すと、嫁入りの時の着物がタンスにしまってあるという。思い出の品が多いのも分かりますが、本人が亡くなると残された人が困りますから。

都会の子供からお寺に電話があり、実家を解体したいのだが、仏壇は壊せないので相談したいという。その家を訪ね、仏壇を開けると中はごちゃごちゃ。親としては上手に死ねるよう、子としては上手に看取(みと)り、遺品整理に困らないよう、元気なうちから準備しておくことです。

 ――厚生労働省は「人生会議」を勧めています。

それは主に終末期医療をどうするかですが、その前に、人生のしまい方をどうするかを夫婦、親子で相談しておくことです。

 ――僧侶が適しているのは。

月命日に、留守でも勝手に家に入り、お経を上げても怪しまれないのはお坊さんくらいで、門徒さんの状態も、別居のお子さんたちよりよく知っています。お坊さんは死の専門家で、いろいろな事例を知っていますから。お坊さんのスキルとして終活は必要不可欠です。

さらに近くの小学校では生徒の3分の1が母子家庭で、子供のいない高齢男性も増えています。そんな門徒さんから、葬式や遺骨、家の処分などの死後事務を頼まれることもあり、僧侶ができないことは弁護士や行政書士などに任せます。

 ――終活セミナーの反応は。

高齢者が多く、とても関心を持っています。各自がエンディングノートを書き上げると、課題が見えてきます。多いのはセミナー後の個別相談で、それに取られる時間が長い。話題は終末期医療や遺産相続、仏壇やお墓、遺品整理などで、具体化すると専門家が対応します。やればやるほど声が掛かり、本業以上に忙しいですよ(笑い)。「上手に生きて、上手に死のう!!」がモットーです。

【メモ】瑞田住職の話を聞き、記者もこの正月、息子2人と遺産相続について話をした。田んぼと家だけだが、田んぼは要らないという。妻に葬式の希望を聞いたことを瑞田住職に話すと、「普通は奥さんの方が長生きするよ」と笑われた。葬式の仕方を告げておかないといけないのは記者なのだが、死後、どうされるかは分からない。もっとも、日常会話のように終活を話せるようになったのはいいことだ。でも、やっぱり妻より長生きしたい。

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