トップオピニオンインタビュー出産は死と隣り合わせ 女守るのが男の矜持にも 日本人の女性観 市谷亀岡八幡宮宮司 梶 謙治氏に聞く 【持論時論】

出産は死と隣り合わせ 女守るのが男の矜持にも 日本人の女性観 市谷亀岡八幡宮宮司 梶 謙治氏に聞く 【持論時論】

かじ・けんじ 1965年、東京都生まれで、先祖は諏訪大社の社家。法政大学文学部日本文学科卒業後、國學院大学文学部神道専攻科を修了し神職に。27歳で父の後を継ぎ、室町時代に太田道灌(どうかん)が江戸城の守護神として鶴岡八幡宮の分霊を祀(まつ)った市谷亀岡八幡宮の宮司となる。氏子による雅楽の継承やユニークなお守り、祈祷(きとう)などにも積極的に取り組んでいる。著書に『神道に学ぶ幸運を呼び込むガイド・ブック』(三笠書房)がある。
かじ・けんじ 1965年、東京都生まれで、先祖は諏訪大社の社家。法政大学文学部日本文学科卒業後、國學院大学文学部神道専攻科を修了し神職に。27歳で父の後を継ぎ、室町時代に太田道灌(どうかん)が江戸城の守護神として鶴岡八幡宮の分霊を祀(まつ)った市谷亀岡八幡宮の宮司となる。氏子による雅楽の継承やユニークなお守り、祈祷(きとう)などにも積極的に取り組んでいる。著書に『神道に学ぶ幸運を呼び込むガイド・ブック』(三笠書房)がある。
トランプ米大統領は就任演説で「常識の革命」を唱え、性は男性と女性の二つに限定すると述べた。背景には、民主党政権下でのジェンダー思想の行き過ぎに対する米国民の反発があったとされる。日本でもLGBTが政治問題化しつつある今、基本に立ち返って考えるため、縄文時代以来の日本人の女性観を市谷亀岡八幡宮の梶謙治宮司に聞いた。(聞き手=フリージャーナリスト・多田則明)

――縄文時代の土偶のモデルには女性、それも妊婦が多い。

それだけ生命を産む女性へのリスペクトがあったからで、それが日本人の女性観につながった。血に対する神道の穢(けが)れの思想も、月経や出産に際し女性をケアする習慣から生まれたのではないか。

――『古事記』の国生み神話で、女性神のイザナミが男性神のイザナギに先に声を掛けたので間違えたというのは、男性上位の中国の影響との説もある。

日本では妻を「山の神」というくらいで、女性へのリスペクトは、表に出さなくても、連綿としてあった。それは『平家物語』や『太平記』にも描かれ、戦国時代を経て江戸時代になり、思想性も加わって、女性を守るのが男性の矜持(きょうじ)の一つとされるようになった。

――昨年の大河ドラマ「光る君へ」で面白かったのは、か弱かった藤原道長の娘・彰子(あきこ)が、皇子を産み国母になるにつれ、次第に自己主張を強めるようになったことだ。

女性は権力を持てない、権威に近づけないという説もあるが、そんなことはない。皇統においても男系男子が尊ばれただけで、女性天皇はいた。女系天皇がいなかったのは、皇統を守るという別の問題だ。フィジカルで女性は男性より弱いので、男性はコミュニティーや家庭の外で戦い、女性は内を守るという役割があった。いわゆる男尊女卑の女卑の部分は日本史に少ない。

――2世紀後半の倭国大乱(わこくたいらん)の時代に、卑弥呼のようなシャーマンが出て部族長の男性たちをまとめてきた歴史がある。皇室はその伝統を受け継ぎながら、天皇は祭司になり、シャーマンの役割は倭姫命(やまとひめのみこと)や斎王(さいおう)らに受け継がれたのではないか。

霊寄せ、占いをするシャーマンの女性と、それを判断して統治に生かす「審神者(さにわ)」が天皇という関係になったのが日本の古代国家の形成で、そうした国のかたちは今も続いている。

日本はシルクロードの終着点で世界の文物と共に人々の魂も集まった。その魂を生み出すのが女性なので苦労した。国生み神話でイザナミは、火の神を産んだので亡くなり、黄泉(よみ)の国にやって来たイザナギに辱めを受け、追い掛けると桃を投げられたりする。もっとも、ひどい扱いを受けた女性神はイザナミくらいで、女性をないがしろにする話は少ない。

日本人は歴史的に性については比較的寛容で、高僧らが少年を囲い、身の回りの世話をさせたりしていた。江戸時代には陰間茶屋(かげまちゃや)のように、女性が若い男性を買う店ができている。同性愛者もマイノリティーとして認められていたのだが、それが近年のように権利として主張するようになると、かえって社会に受け入れられにくくなっている。

――今年の大河ドラマ「べらぼう」の舞台は、江戸の出版文化が生まれた吉原だ。

当時、吉原で遊ぶにはお金に加えてかなりの教養が必要で、楼主たちは俳諧や狂歌、声曲、狂言など江戸文化の守護者で歌舞伎役者のパトロンでもあり、遊女たちにも三味線などの芸事をはじめ和歌や書などの教育を施している。とりわけ最上級の花魁(おいらん)には芸と教養が求められ、吉原は多くの文芸人が集まる文化サロンでもあった。女性を卑下していたらそうはならない。

武士の時代の女性は家の相続権はなかったが、鎌倉時代から独自の財産を持ち、産んだ子が成長すると「母上様」に、孫ができると「おばば様」となり、家庭内の地位は向上していった。

――経験的にも女性は子を産むと強くなる。

それが命を生み出す力だろう。神道では「むすひ」と言うが、天地・万物を生成・発展・完成させる霊的な働きのことで、それを女性が持っている。命懸けで命を生み出すのが女性で、その尊さが分かる男性は、小屋を設けひたすら準備をしてきた。

――古事記神話では、ニニギノミコトとの一夜の契りでの身籠りを疑われたコノハナサクヤヒメが、産屋に火を放って出産し、身の証を立てた。

古事記神話の契約(うけひ)の話の一つで、産む女性の強さを主張している。これらは、おそらくアジア全域にあった地母神の神話を反映しているのではないか。出産は死と隣り合わせなので、それを神聖化し、それが男女交合の国生み神話になったのだろう。胎児には神が宿るとされ、それ自体が信仰の対象になった。

――函館の縄文遺跡から、早世した子供の足型の粘土板が出土している。『古事記』神代編の冒頭には、神が「泥の中から葦牙(あしかび)のごとく萌(も)えあがってきた」という表現がある。

縄文人の循環的な生命観を暗示している。神道では人のことを「青人草」と言うが、刈り取っても生えてくる神秘さを感じ、そう呼んだのだろう。枯れた草が春になると青く伸びてくるのに、再生の力を見ていた。

道教には、中国古代の三皇五帝の三皇の一人、伏羲(ふくぎ)と女媧(じょか)は人類始祖になった兄妹神という神話があり、日本の国生み神話と似ている。むしろ、儒教が帝王の権力と結び付いて、男尊女卑の思想になったのではないか。

神代からの日本人の心性が衰退しているのが少子化の一因でもある。女性差別的な面は改めるべきだが、性差そのものをなくそうというのは明らかに行き過ぎだろう。

他方、子育ての期間は子供と過ごす時間を大切にしたいという女性が多いのも事実で、今は過渡期的な段階にある。それゆえ、政治のかじ取りが重要で、日本人の心性に即した国のかたちを守ってほしい。

【メモ】独社会学者エーリッヒ・フロムは『愛するということ』で、「愛とは、愛する者の生命と成長を気にかけることである」という。つまり、愛には責任が伴う。「失楽園の物語」については、禁断の木の実を食べたのを神に責められた「アダムがイヴをかばおうとせず、イヴを責めることで我が身を守ろうとしたこと」から、「ふたりはまだ他人のままで、まだ愛し合うことを知らない」と。人を成長させるのが性という考えから、男女の愛と性を考えたい。

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