トップオピニオンインタビュー行動・決断するのが危機管理 阪神・淡路大震災30年

行動・決断するのが危機管理 阪神・淡路大震災30年

元米海兵隊太平洋基地政務外交部次長 ロバート・エルドリッヂ氏に聞く

阪神・淡路大震災の発生から17日で30年を迎えた。当時、大阪府豊中市在住で震災を経験し、2011年の東日本大震災における米軍によるトモダチ作戦を発案し起草した元米海兵隊太平洋基地政務外交部次長のロバート・エルドリッヂ氏に当時の経験と日本の防災について聞いた。(聞き手・豊田 剛)

ロバート・D・エルドリッヂ 1968年、米国ニュージャージー州生まれ。エルドリッヂ研究所代表。神戸大学大学院で政治学博士号(公共政策)取得。大阪大学准教授、ハワイ米海兵隊政治顧問、在沖海兵隊基地政務外交部次長を経て現職。著書に『トモダチ作戦』(集英社)、『次の大災害に備えるために』(近代消防社)など多数ある。

――阪神・淡路大震災を体験したが、当時の様子は。

大阪大学修士課程1年の時の出来事だった。クリスマス休暇で米国に一時帰国して日本に戻ってきて2日後、時差ボケが残る中、朝5時には起きていた。アパートでコーヒーを飲みながら読書している時だった。最初は少しの揺れを感じた。すると、すぐにバーンという音とともに30秒ぐらい横に大きく揺れたのを感じた。激しく揺れたロフトベッドが落ちてこないか、そして、食器棚が倒れないか心配だった。どちらも支えようとしたが結局、食器棚が倒れた。揺れが収まると、棟内の友人や管理人の安否を確認した。震災の後、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を患っている。今でも大型トラックなど大きな音が聞こえると恐怖を感じる。

ただ、この経験は私の人生を変えた。専門の政治・外交・安全保障に加えて、予定にない防災について研究するようになり、これがライフワークの一部となった。

――日本人の防災意識はどうか。それ以来、高まったと思うか。

阪神・淡路大震災以来、ずっと日本政府の防災危機管理のなさを感じている。日米問わず一般人が言いにくく耳が痛くなるような問題点を、嫌われる勇気と覚悟を持って指摘している。

防災研究を進める中で、2006年3月、トモダチ作戦の原案となる提言を起草したが、米国は相手にしてくれなかった。同年12月に米国国際開発庁(USAID)の会議がワシントンで開かれた際に防災について政策提言したが、シナリオが「悲観的過ぎる」と批判する人もいた。日米両政府、米軍、自衛隊、自治体の防災担当に提言してきたが、本気で取り組もうとする人は誰もいなかった。

――それでもトモダチ作戦は成功した。

2011年3月11日の東日本大震災の前日、政策提言を菅直人首相(当時)に送った。その半年前に大型ハリケーンが米国に壊滅的な被害をもたらした。また、その年の5月に菅氏がオバマ米大統領(当時)に会うというので、日米相互新協定を作るべきだと提言した。日米同盟は対等ではないのでこうした協定を作っておくべきだった。協定では、同盟国で発生した大規模災害に自衛隊を派遣し、米国も日本を救援できるように取り決めるものだった。あくまでも人道支援が目的なので革新系の人々も反論できない。プラスでしかない案件だった。

当時の在沖米軍司令に「災害支援で欲しいものは何でも言ってほしい。ただし、それ以上のことは聞かないように」と伝えた。これがトモダチ作戦の成功につながった。後に被災者向けのホームステイプログラムが沖縄の米軍基地内で実施されるなど継続的な関与・支援ができている。

人脈を使い、勇気ある行動や決断ができることが危機管理なのだ。こうしたサムライ精神は今の日本人から消えてしまい、事なかれ主義に陥っている。米国も同様に、事なかれ主義になっている。

――日本の復興のスピード感についてどう思うか。

阪神・淡路では国土やインフラといった物理的復興は比較的早かった。神戸市は災害に強い町に生まれ変わった。

問題は、人間的な側面だ。被災者は、仮設住宅での暮らし、地域コミュニティがバラバラになることを余儀なくされた。身寄りや支えになるものを失った人々に対するケアをしっかりやるべきだった。

一番恐れているのは、避難生活中に亡くなる「災害関連死」だ。阪神・淡路では全体の震災犠牲者の14%、東日本大震災では17%だったが、16年の熊本大地震では8割が関連死だった。能登半島地震でも関連死が「直接死」を上回っている。これは被災者本人だけの問題ではない。行政や地域社会が継続的に支援すれば防げることだ。声掛けや意識をすることが重要になる。

日本人は恩返しができる国民だ。一度被災した人は、どこかで震災があれば必ず支援をする。こうして支援の輪がつながっている。

――台湾東部でも昨年、大地震があった。

その当時、台湾にいたが、民間の団体が強力に支援をしている。日本と比べて格段に動きが速い。何か支援をするにしても行政の規律やルールが足かせになることは良くない。

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