ワシントン・タイムズ社長 クリストファー・ドーラン氏
世界日報社長 早川 俊行
本紙姉妹紙の米ワシントン・タイムズのクリストファー・ドーラン社長と世界日報の早川俊行社長が、今年元日の世界日報創刊50周年を記念して対談した。昨年11月の米大統領選で、大手メディアから批判され続けたトランプ前大統領が国民の圧倒的な支持を集めて勝利したことに関し、メディアが偏った報道で国民の信頼を失っている状況は「民主主義の危機」であり、公正で正確な「責任あるジャーナリズム」の原点に回帰すべきだとの認識で一致した。
ドーラン氏は大手メディアの報道姿勢について、トランプ氏は悪人というストーリーを作り出そうとする思惑が先行し、誤報を繰り返してきたことを厳しく批判。入手した情報が正確かどうかを精査するというジャーナリズムの基本的作業さえ怠る現在の大手メディアは「報道の在り方を見失ったと言わざるを得ない」と断じた。
これに対し早川氏は、日米の有権者の間で大手メディアよりもSNSから情報を得ようとする動きが広がっていることを指摘し、「社会の木鐸(ぼくたく)であるべき報道機関が国民の信頼を失っている状況は、民主主義の危機だ」との見方を示した。また、トランプ氏の勝因について「過激なジェンダー思想など左翼イデオロギーを押し付けるバイデン政権やエリート層に対する庶民の怒りが爆発したこと」だと論じた。
ドーラン氏はワシントン・タイムズと世界日報の姉妹紙関係について、「両紙の核心にあるのは、健全な民主主義を支持し、共産主義に反対するという考え方だ」と指摘。「活発な中国報道」の必要性を強調するとともに、「日本との関係は死活的に重要だ」との認識を示した。
早川氏は「トランプ次期政権は中国を外交・安全保障政策の最優先に位置付ける」と予測。強大化する中国の脅威に対抗する観点からも、姉妹紙関係を通じて日米の関係強化に寄与したい考えを表明した。
【日米姉妹紙 社長対談】
ワシントン・タイムズのクリストファー・ドーラン社長と世界日報の早川俊行社長との対談は以下の通り。
公正報道で社会の木鐸に
「反共」基盤の姉妹紙関係
国民の信失う大手メディア
早川 米国の選挙では報道機関が特定候補の支持を表明することは一般的です。表向きは中立の立場を維持するために、特定政党・候補の支持を控える日本とは対照的です。昨年11月の米大統領選では、多くの報道機関が民主党のハリス副大統領を支持する中、ワシントン・タイムズは共和党のトランプ前大統領支持を打ち出しました。
ドーラン 米国の新聞社は圧倒的にリベラルで、歴史的にも民主党候補を支持することがほとんどです。これに対し、ワシントン・タイムズは全米の新聞社で唯一、保守の論説ページを設けています。このため、私たちは保守派の信任を得た大統領候補を支持するのが通例です。
トランプ氏が大統領だった4年間の米国は、経済を含めてうまくいっていました。ところが、バイデン政権の4年間で、経済、社会、生活の質に至るまでさまざまな問題が生じました。バイデン大統領の健康状態についても、ホワイトハウスは常に国民をミスリードし、民主党が正しい方向に進んでいないことは明白でした。従って、私たちが今回、トランプ氏を支持することは容易な判断でした。
早川 大接戦になると予想されていた大統領選は、実際にはトランプ氏の圧勝でした。日本の大手メディアは決して報じませんが、過激なジェンダー思想など左翼イデオロギーを押し付けるバイデン政権やエリート層に対する庶民の怒りが爆発したことが勝因だと見ています。
ドーラン 正確な見方だと思います。どの国でもエリート層が政府を動かしていますが、米国では庶民との間に断絶が生まれています。
「親の権利」を巡る問題が一例です。学校が(トランスジェンダーの)子供の性別変更を親に知らせることを禁じる州・自治体があります。これは親から子供に対する権利を取り上げるものです。このようなリベラルな政府や州・自治体に対し、庶民は共和党、民主党関係なく猛烈な不満を抱いたのです。
トランプ氏が共和党候補としては20年ぶりに総得票数でも上回るという圧倒的な支持を集めたのは、こうした背景があります。
早川 トランプ氏はニュースメディアを「国民の敵」と呼びました。言論の自由を否定する発言にも聞こえますが、中立・公正な報道から逸脱した大手メディアは、国民の利益を損ねているというのが発言の真意だと思います。
問題は多くの国民がこの見方に同調していることです。日本も同様です。社会の木鐸であるべき報道機関が国民の信頼を失っている状況は、民主主義の危機といえます。
ドーラン トランプ氏の発言は、情報を長らく支配してきたオールドメディアに対して向けたものです。読者や視聴者に情報を伝えて判断してもらうというこれまでの報道の在り方から逸脱し、意見を押し付けるようになりました。それが顕著なのがテレビです。出演者が思っていることを言うだけのオピニオン番組ばかりです。
ニューヨーク・タイムズ紙やワシントン・ポスト紙などの大手報道機関は、「トランプ氏の悪事」というストーリーを作り出しました。しかし、その多くが誤りだったことが分かっています。彼らは報道の在り方を見失ったと言わざるを得ません。連邦政府関係者や思惑を持った情報源に頼り過ぎたのです。情報の精査に関して、ジャーナリズムにはもっと高い基準があったはずです。
トランプ氏がオールドメディアを叩(たた)いていますが、米国民の半分はトランプ氏に言われるまでもなく、彼らが左傾化していることを理解しており、別の媒体から別の視点を得ています。
早川 日本でも大手メディアから猛バッシングを浴びていた兵庫県知事が再選されました。有権者の間で、大手メディアを信用せず、SNSから情報を得ようとする動きが広がっています。
ドーラン 大手メディアは自分たちのアジェンダを推進するために、情報を捏造・操作しています。求められるのは、情報を読み解ける教養のある有権者です。
そのためには、若い学生たちに批判的思考を身に付けさせる教育プロセスが必要です。物事をどう考え、情報を取捨選択するか、これを理解する国民を増やしていく。長期的な取り組みですが、国民を教育するしか方法はありません。
早川 SNSが新たな情報源になりましたが、一方でイーロン・マスク氏が買収したX(旧ツイッター)を除けば、SNSはリベラルな巨大IT企業によって運営されています。保守派の言論を「検閲」していることは深刻な問題です。
ドーラン 巨大IT企業は連邦政府との取引で大金を稼ぐために、喜んで検閲に協力します。IT企業と政府には検閲を厭(いと)わない考え方を共有する勢力が存在し、彼らが手を組んでいるのです。検閲は新型コロナウイルス禍の下で鮮明になりました。
いわゆる「ファクトチェック(真偽検証)」は、報道の信用を落としたり、反対したりするのに利用されていますが、民主党の工作員によって行われているのがほとんどです。彼らの経歴を調べると、かつて働いていた組織はすべてリベラル系です。
早川 メディアが信頼を取り戻す道は、責任あるジャーナリズムに回帰することだと思います。
ドーラン 同感です。より正確な情報を発信すること、これに尽きます。
ワシントンには自分が国民の代表だと思っているジャーナリストがたくさんいます。しかし、私たちは取材相手に国民が求める質問をぶつけ、その答えを公平に伝えることで国民を代表しているのです。それがジャーナリストの仕事です。
早川 トランプ次期政権は中国を外交・安全保障政策の最優先に位置付ける見通しです。中国報道の重要性が一段と高まっています。
ドーラン ワシントン・タイムズは創刊から40年以上、世界日報は50年になります。両紙の核心にあるのは、健全な民主主義を支持し、共産主義に反対するという考え方です。共産主義の中国が超大国となり、あらゆる主要な国際問題に関与するようになりました。だからこそ、活発な中国報道が必要です。
早川 中国の脅威に対抗するには、日米の連携が重要になります。世界日報とワシントン・タイムズの姉妹紙関係は、緊密な日米関係に貢献できると信じています。
ドーラン アジア太平洋地域は、米国にとって安全保障や経済などあらゆる面で重大な関心事です。この大切な地域に姉妹紙が存在することは、私たちにとって極めて重要です。
米国内には常に世界との関与を減らそうとする動きがあります。戦争や国際問題に対する米国の役割を制限しろと言うのは簡単ですが、外に出れば、さまざまな人々と共に役割を果たす必要があります。その意味でも、日本との関係は死活的に重要です。
早川 日本では安倍晋三元首相銃撃事件以降、特定の宗教団体が政府やメディアの標的になっています。信教の自由をあらゆる自由の基盤と捉える米国から見て、日本の状況はどのように映りますか。
ドーラン 民主主義の日本が、長い間高い評価を得てきた旧統一教会を狙い撃ちにしていることに衝撃を受けています。米国ではあり得ないことで、完全な自由の喪失です。
キリスト教であろうとイスラム教であろうと、宗教は私たちが人間として、コミュニティーとして交流する枠組みを提供する基盤だと信じています。その信条を損ない始めると大きな問題が生じます。米国が抱える問題の一端は世俗化にあると感じています。
世俗化を推し進める勢力に共産主義とのつながりがあることは明らかです。共産主義が宗教を嫌うのは、宗教は人々に自由を与え、権力に疑問を持つことを可能にするからです。
私はカトリック教徒ですが、米国のカトリック教会は児童虐待を隠蔽(いんぺい)してきたことが明らかになりました。それでも解散にならないのは、他にも良いことをたくさんしているからです。
ワシントン・タイムズは日本で旧統一教会が標的になっていることを報じてきましたが、日本以外でほとんど知られていないことにショックを受けています。米国はこの問題にもっと関与し、日本は間違った方向に進んでいる、宗教の役割を尊重しない人々に誘導されて道を踏み外している、と主張すべきです。
早川 世界日報は創刊50年の節目を迎えました。最後にメッセージをいただけますか。
ドーラン 50年というのは大変なことで、圧倒されています。この間に皆さんが果たした役割は非常に重要です。冷戦時代はソ連国家保安委員会(KGB)のスパイ活動が日本の国会にまで浸透していたことを暴露し、1990年代は(自民党が検討していた宗教基本法案を廃案に追い込み、)信教の自由を守りました。
私たち新聞は民主主義の中で死活的な役割を果たしています。ワシントン・タイムズの全社員から心からのお祝いを申し上げます。
早川 ありがとうございました。