
中国共産党政府により民族浄化の危機にさらされているウイグル民族。日本で暮らすウイグル人のイリハム・マハムティさんは2008年からウイグルの現状を伝える活動をしているが、実は17年に東京都内でウイグル料理店をオープンしていた。食を通じてウイグルの文化や伝統を伝える活動の場にしようとした矢先、コロナ禍によって20年に閉店。しかし今年、クラウドファンディングで資金を集め、レストランを再び開く決意を固めた。(聞き手・石井孝秀)
――クラウドファンディングは9月中旬から10月末にかけて実施されています。
目標金額は達成できなかったものの、結果として約130万円の支援が集まりました。来年2月ごろに新店舗をオープンできるよう、準備を進めていきたいと思っていますが、2回目のクラウドファンディングの実施も検討しています。
――17年にオープンしたレストランは、どういう経緯で始めたのですか。
私が来日したのは01年ですが、その頃からウイグル独自の文化を紹介したいと思っていました。「被害者」としてのウイグル民族は知っていても、どのような文化や伝統を持った民族であるのか、もっと日本人に説明していく必要があると感じていました。
幸い17年に巣鴨の辺りでちょうど空きの出た店舗を見つけることができ、同年7月に私の活動事務所も兼ねてオープンしました。残念ながらコロナ禍で20年7月に閉店しましたが、世の中が落ち着いたら、また始めようと考えていました。
もう一つ重要なこととして、中国人によるウイグル料理店が増えてきたことに懸念を抱いています。中国人のウイグル料理は中華料理のように香辛料や油がたっぷり使われ、伝統的なウイグル料理とは全く異なります。
でも、日本人からすれば、そういったものがウイグル料理と勘違いされかねません。日本という自由な環境にありながら、自分たちの文化を中国から守ることができないとしたら、こんなに情けない話はないでしょう。レストランの再開は、そういう意味でも大切なことです。

――ウイグル料理の特徴にはどんなものがありますか。
コショウやクミンなどのスパイスを使うこともありますが、味付けの中心は塩で、できるだけ素材の味そのものを引き出しています。
主食の一つは麺で、その場で作る手打ち麺の料理ラグマンは、あまりウイグル料理を食べたことのない日本人にも、うどんのように食べやすく、お勧めです。
ナンなどのパン類もよく食べています。ウイグルのナンは円盤状の丸い形をしていますが、ウイグル民族の間でも地域ごとに違いがあり、見ればどこの地域かすぐ分かります。ちなみに私の作るナンはウイグルの東部のものです。
米も食べますが、ウイグルの土地は水が貴重なので、特別な食材です。お祝いや来客をもてなすときには必ずと言っていいほど出てくるのが、「ポロ」というピラフのような料理。肉と野菜などを具にして塩で味付けしたもので、結婚式など大勢の客が来るようなときには、大きな鍋2、3個使って振る舞うほど、宴(うたげ)の定番料理です。
また、ウイグル人は中央アジアに住む民族であることから、歴史的に肉は羊肉が中心で、もはや主食といって差し支えないほどよく食べています。先ほど話したラグマンやポロにも羊の肉を使いますね。
大きな祝い事だと、一度に羊を15~20頭使うこともあります。4、5人くらいでも集まれば、羊を丸々1頭さばいて、その日中に食べ切ってしまいます。手慣れた人なら15分以内に解体し、鍋に入れてしまうのです。
――本当に羊が食文化の中心なのですね。
内臓もほとんど食べるし、羊の血は果物の肥料に使っています。これも先祖から受け継いできた知恵であり、文化と言うべきものでしょう。
私たちは歩き始めたくらいの幼い時から、羊の屠殺(とさつ)場へ連れて行かれ、羊のつぶし方を見て覚えます。ウイグル社会では羊の解体方法を身に付けることは、家族を養える一人前の男性になる上で、とても大切なことです。
しかし、現代のウイグル社会だと、そういう風習は失われているでしょう。もしかしたら中国政府から、自宅での羊の屠殺が禁止されているかもしれません。
――デザートや飲み物にも特徴はありますか。
サンザという揚げ菓子が有名で、お祭りのときには食卓の真ん中によく置いてあります。
また、ウイグルは昼と夜の温度差が大きいため、糖度の高い果物の産地としても知られています。リンゴ、アンズ、ナシ、メロン、ブドウ、ザクロ、クワの実などはとてもおいしく、保存食のジャムにしたり、干したりして一年中食べています。
飲み物は紅茶が多く、食事中にもミルクティーをよく飲みますが、海外と異なるのは砂糖ではなく塩を入れて飲んでいる点ですね。
――日本人向けに味の調整はしていたのですか。
その必要はありませんでした。実際お客さんから「日本人の舌に合わせているのですか」と聞かれたことがありますが、一切していないのです。故郷の味をそのまま出して、そういった感想を頂けたので、ウイグル料理は日本人の口に十分合うと確信しています。
――レストランをオープンできたら、何に取り組んでみたいですか。
自然とウイグルの現状や歴史について語り合ったり、紹介したりできる場にしたいですね。
それに以前は料理教室も開いていたので、これも再開したいです。お店に行かないと食べられないような遠い存在でなく、自宅でも気軽に作って食べてもらえる方が、ウイグル文化を広める道になるはずです。
【メモ】ラマダン(断食月)期間中は、町の人々が互いの家を訪ね合っているそうだ。期間内に自分の家まで順番が回ってこなかった人は、とても残念がるという。そういった微笑ましい宴の一場面は何気ない日常風景かもしれないが、決して奪われてはならない瞬間だ。不条理な現実に対して、日本人として何ができるのか、日々考えさせられる。