中国新疆から英国に亡命したウイグル人元外科医エンヴァー・トフティ氏に、中国の処刑場でまだ生きていた死刑囚から臓器を摘出したリアルな経験を先回語ってもらった。今回さらに国家犯罪としての中国臓器狩りのディープな話が続く。(聞き手・池永達夫、写真・石井孝秀)
――中東の人々の臓器移植で中国が国際競争力を持っている一つは、ハラル臓器があるからだと聞く。
イスラム教の人々が臓器移植する時には、献体者がイスラム教であることを求める。イスラム教では食べてもいい魚介類や野菜・果物といったハラルフードというものがある。一方、豚肉やアルコール飲料などのハラムフードは摂取してはならないとされる。
こうした戒律を守っているはずのイスラム教徒の臓器は、移植を受けるイスラム教徒にとって穢(けが)れていないハラル臓器というわけだ。ハラル臓器は通常臓器の2、3倍も値が張るが、移植を受けるイスラム教徒にとって金銭を超えたシリアスな問題となっている。
中国では多くの移植センターにイスラム教徒用の特別室がある。
リッチなアラブ人は、ブローカーを通じ中国大使館にレターを書き込むと、ウルムチにある富裕層向けの施設に向かう。そうするとハラル臓器を2カ月以内に受け取れる。
トルコで臓器移植がブームになったことがあるのも、中国のハラル臓器の存在が大きく影響した。ハラル臓器を持つ中国のウイグル人がターゲットになっている。だからイスラム国家富裕層が、中国の臓器ビジネスのスポンサー役を果たしているのは確かだ。イスラム教国家では、中国の蛮行を糾弾する国は一国もない。
中国は臓器移植を、外交のバーゲニングパワーに利用している。つまり国家戦略の一つとして、臓器狩りが組み込まれているということになる。
マレーシア国王が同国を訪問した中国の習近平国家主席と会談した際、肝臓移植を受けた息子の話では涙ながらに感謝の意を述べたことがある。
――共産主義は労働者が搾取されない平等社会の実現を言うが、共産党独裁政権が実現すると「赤い貴族」が誕生する。臓器移植の世界でも特権階級が幅を利かせることはあるのか。
中国ではランクが高い人と低い人では、寿命にギャップがある。
高官の死亡年齢が95歳、100歳なんていうのはざらだ。
何でそんなに生きられるのか。その理由の一つは、無尽蔵に臓器があるからだ。ランクが高いとスペシャルケアを受ける権利を持ち、臓器を無料で受け取ることができる。
中国では臓器のサプライチェーンができている。臓器移植は一大ビジネスになっており、中国人体臓器分配・共有コンピューターシステムが存在する。新疆で初めて導入され、中国全土に全面展開したCPシステムだ。北京には44の移植サービスセンターがあるとされる。
臓器移植希望者は血液検査と生体検査を受ければ、そのシステムを使い適合する臓器を5分で見つけることが可能だ。最悪なのは、それがどこかで生きている生体だということだ。
ドクターというのは、人の命を救うのが使命だ。だが臓器移植で患者の命を救う一方、臓器提供を申し出ていない人の臓器を強制的に摘出する闇の世界に手を貸している。問題なのは、これが刑事告発に当たることだとの認識が中国ではないことだ。
――中国は2015年、死刑囚の臓器摘出を停止すると発表しているが。
中国は言うこととやることが違っている。二枚舌に騙(だま)されることなく、あくまで現実を直視すべきだ。
――腎臓は2個あるから、1個だけ取られても助かるはずだが、助けてもらえないのか。
被害者は目を覚まさない状態にされ、殺されて迅速に臓器を摘出される。
腎臓や肝臓、心臓、眼球といった臓器だけでなく皮膚も取る。そして、臓器を取り終わると口封じをする。
――皮膚は火傷(やけど)の治療に使うのか。
女性の健康製品に使われる。
――こうした事実を中国国民は知っているのか。
みんな知っている。
――それでも反対しない。
そうだ。認めている。間違っているとは思わない。
なぜかというと、国は間違ったことはしないはずだと信じているからだ。
――究極的には基本的人権や命の尊厳を認めない、中国社会の道徳水準の低さに問題があるのでは。
中国の道徳水準は極めて低い。
――原因は。
共産党政権が誕生してから変わった。国家による洗脳教育が施されてきたからだ。
学校に行くと先生から、「あなたの命は共産党が与えている。父母があなたの生命を与えたかもしれないが、本当の父母は毛沢東と共産党だ」と教えられた。当初、私はジョークだと思ったが、中国ではこれが真実なのだ。
また欧米社会と中国では、罪の観念が違う。欧米では訴えられるまで無罪だが、中国では正しい人だと証明されるまでは悪人だ。
――1995年に医者として死刑囚から臓器を取り出した時と今では、罪悪感は違うものなのか。
全く違う。より深い罪悪感を持つようになったのは、英国に亡命して社会生活を送りだしてからだ。
――そうすると欧米で留学生活やビジネス体験をした中国人が帰国することで、中国を変革するパワーになるということか。
いや、難しいだろう。共産党政権のヒエラルキーの中で、欧米社会から得たはずの良心基準は封印されていく。
中国を変革するには、共産党政権が交代するしかないだろう。
――日本の製薬会社アステラス社の社員が中国で拘束され、1年余が過ぎてもなお帰国は難しい。彼は臓器移植の秘密を知り過ぎたのではとも言われている。
詳細は分からないが、その可能性は否定できない。
――アステラス社は臓器移植で必要となる免疫抑制剤も扱っている。中国で使われている海外の免疫抑制剤はどこのものが多いのか。
臓器移植後は拒絶反応が起こらないよう免疫抑制薬を使用するが、欧州の製薬会社のものが多い。
【メモ】イタリアやスペインでは法整備後、中国への移植渡航を禁じた。カナダでも臓器移植の海外渡航ビジネスを犯罪と定める海外臓器移植阻止法が成立、同様の法案を採択する国も出てきている。わが国でもこうした法案を採択し、注文に応じて殺害される人々の生命を守る必要がある。他人の命を奪うことで自分の命をつなぐようなことがあってはならない。