世界地図を普及させた利益で、カンボジアで井戸を掘り続けている人がいる。株式会社世界地図(愛媛県松山市)社長の松岡功さん(80)だ。世界地図を普及させる意義やその可能性、そして井戸掘りの現状などについて聞いた。(聞き手=森田清策)
――名は体を表すと言いますが、㈱世界地図とはそのものズバリですね。松岡さんと世界地図との関わりは。
30歳からは30年間、フランチャイズで塾を経営していました。塾の理念として、大学に何人合格させるかよりも「社会に貢献する子供を創りたい」を掲げました。その時に、世界地図を生徒募集のための“武器”として製作し無料で配りました。それが好評で、生徒数3000人以上になりました。
――それがどうして㈱世界地図を設立することにしたのですか。
60歳になった時、塾等グループ会社をすべて手放しました。還暦になったのをきっかけに、世界を回ってみたいと思ったからです。最初に訪れた国はカンボジアです。現地で、友人が孤児院を運営していたので訪れました。
そこで驚いたのは、茶色く濁った水を沸かして飲んでいたことです。感染症や下痢で亡くなる子供もいます。そこで「水だ、井戸を掘ろう」と決心しました。
けど、収入源を手放してしまったので、残ったのは世界地図だけ。それを“武器”にして、その利益で井戸を掘ろうと考えました。ですから、会社の定款で目的を①世界地図の製作と普及②井戸を掘ること―としました。
②の井戸を掘ることという項目については当初、県からストップがかかりました。理由は利益を追求しないから。しかし、少し経(た)ってからOKとなりました。今頃は、自治体が社会貢献を言っている。時代は変わったものです。
――名刺に「世界地図は子供達に夢と希望、そして目標を与えます!」とあります。
世界のすべての国に行ったわけではありませんが、本屋さんで世界地図を売っていない国がほとんどで、世界の人々の90%は世界地図を見たことがありません。だから、世界を知らないのです。
幕末の志士、坂本龍馬は勝海舟に地球儀を見せられて、攘夷論者から開国論者に180度転換しました。そのおかげで明治維新が成功し、日本は植民地にならずに済んだのです。
――世界地図一つで、人の意識が変わるのですね。
世界地図を見ると、世界は広いし自分の国は小さい、海外にも行ってみたいな、という気持ちになります。そして、人々に夢と希望を与え、世界平和につながります。
日本でもアメリカ合衆国がどこにあるか、分からない大学生が3%いるし、1割は北朝鮮がどこか分からない。だから、読み・書き・そろばん、そして世界地図です。
――これまで井戸は何基掘りましたか。
495基掘りました。バングラデシュに15基掘るったほかは、すべてカンボジアです。タイとの国境沿いは、岩が多く、しかもポル・ポト派が埋めた地雷が残っているので、時間も費用もかかります。一方、アンコールワットの奥地は掘るとすぐ水が出ます。
世界地図の利益の一部は井戸掘り活動に生かされますが、500枚以上からはオーダーメードのオリジナル地図が製作できます。5000枚で1基掘ることができるので、井戸のそばには、(世界地図を注文してくれた)スポンサー名を書いた看板を建てています。
オリジナルを製作する場合、約60種類あるベースの地図から選んでいただくのですが、最も好評だったのは、世界70カ国語で「ありがとう」「こんにちは」を聞くことができるQRコード付きの地図と、津波に対する心得など防災を学ぶことができる地図です。
――今後の目標は。
目標は22万基掘ることです。地球の表面から地球の芯まで、635万7000㍍。井戸1基で30㍍掘る計算で、22万基掘れば、地球の中心に到達する。そんなの私の代ではできっこない。「坂の上の雲」をつかむようなロマンを共有してくれる後継者を探しています。
もう時間はありません。一刻も早く、ウクライナやシリアや世界の人々に、世界地図を見てもらいたいです。ウクライナの龍馬、シリアの龍馬が現れるかもしれません。紙切れ一枚なのでどこにでも入り込んでいけます。世界中の家庭に、夢と希望を与えることができる世界地図が貼られ、世界平和に役立つことを願っています。
――松岡さんの社会活動の原点は。
テレビで見た「月光仮面」ですよ。あの歌とドラマにいい意味で徹底的に“洗脳”されました。正義のために戦わないといかんと。今でも、あの歌が一番好きです。「月光仮面のおじさんは、正義の味方」。それから「怪傑ハリマオ」。あれにも熱中しました。だから、人のために何かをすることが大好きでした。
今、私はこう思っています。世界中がまさかの時代を迎えています。日本は世界平和のリーダーになるべきだし、なれると。一番の理由は、天皇陛下がおられるということ。世界に80億人いる中で、「エンペラー」は日本の天皇陛下、ただお一人です。
今上陛下の書かれている文章を読むと「世界平和」という言葉が出ます。そして、日本国民だけでなく人類の幸福を願い、祈るといつも言われる。天皇皇后両陛下は、海外にも留学され、国際感覚はピカ一。世界平和の役割が一番果たせる方が日本におられる。歴史を見ても、日本は世界平和に貢献できます。今こそ、日本は立ち上がらないといけません。
メモ インタビューには、濃い緑の軍服にウクライナの国旗のバッジを付けて現れた。ウクライナのゼレンスキー大統領が着ているあれだ。ウクライナ戦争が勃発して以来、着ているという。「今、僕は何もできないのですから、せめてゼレンスキーと同じカーキ色の服を着ている」。月に1度は上京するが、社長自らが鞄(かばん)を持ち営業の先頭に立ち、世界平和のために戦っている心意気が伝わる。
2年前、同級会の席、幹事を務めていた親友が倒れて亡くなった。「人生はあっけない。いつ何が起きるか、分からない」。もうすぐ81歳になるが、「そういうことがあるから、やり続けるのです」。ただ、一人では世界平和は遠い。「多くの応援団(サポーター)の力が必要です。力を貸して下さい」と協力を呼び掛けている。090(7570)2411(松岡まで)。