中国では、イスラム教徒のウイグル族やチベット仏教徒、法輪功学習者だけでなく、キリスト教徒に対する弾圧も激化している。東京都内で先月開催された「国際宗教自由(IRF)サミット・アジア」に出席した米人権団体「対華援助協会(チャイナエイド)」会長のボブ・フー(傅希秋)牧師に、キリスト教徒が中国共産党から受ける弾圧の実態を聞いた。(聞き手=本紙主幹・早川俊行)
――中国におけるキリスト教弾圧の現状は。
習近平国家主席の下で、中国のキリスト教徒に対する弾圧は、毛沢東の文化大革命以来、40年間見られなかった最悪のレベルにまで達している。迫害の度合いは日に日に悪化している。
習氏が権力を握ってから、キリスト教徒への対応はそれまでの「管理」から「根絶」に変わった。十字架は国家安全保障上の脅威とみなされ、教会の屋根から撤去させられている。何百万人ものキリスト教徒の子供たちが、公の場で信仰を放棄する書類に署名させられ、医師や看護師でさえキリスト教を信仰することは許されない。
家庭や職場であろうと、聖書などを見つけた場合は、密告を促されている。このようなことが起きたのは、文化大革命の時だけだ。違法宗教活動を報告した者には報奨金が支払われる。
多くの牧師が礼拝で献金箱を置いただけで逮捕されている。献金の徴収はカトリックやプロテスタントが何世紀も行ってきたことだが、共産党はこれをビジネス詐欺として犯罪化している。3~7年の刑を言い渡された牧師が大勢いる。
――中国には政府公認と非公認の教会があるといわれているが。
習体制下では、政府公認の教会までもが標的となり弾圧されるようになった。公認の三自愛国運動教会の牧師たちも、自発的に十字架を撤去するのを拒否すれば、逮捕される。12~14年の刑を科せられた牧師が何人もいる。
――深刻な弾圧の事例は。
私の親しい友人に、四川省成都市にある秋雨聖約教会の王怡牧師がいる。彼は憲法学の教授から牧師になり、礼拝の説教で習氏に悔い改め、神を信じるよう訴えていた。2018年に国家政権転覆扇動罪の容疑で逮捕され、9年の刑が科せられた。妻も拷問を受けたほか、200人以上の信徒が逮捕され、80人以上の女性信徒が性的暴行を受けたことが確認されている。
もう一人紹介したいのが、キリスト教徒の人権派弁護士、高智晟氏だ。「中国の良心」と呼ばれ、ノーベル平和賞に推薦されたこともある。国家政権転覆扇動罪で有罪となり、14年に出所して非人道的な拷問を受けた体験記を出版した。だが、17年に拉致され、この7年間、消息不明のままだ。彼がどこにいるのか、生きているかさえ分からない。
――中国には現在、どのくらいのキリスト教徒がいるのか。
米パデュー大学の推計では、1億人から1億3千万人といわれている。全人口の約10%だ。その数は急速に増えており、同大学は30年までに少なくとも2億2400万人に達すると予測している。
――キリスト教徒が増える理由は。
弾圧が強まれば強まるほど、信者は増えていく。これは過去70年間の増加のパターンだ。キリスト教の愛と赦(ゆる)し、困難を乗り越える力、そして信徒たちが弱者に奉仕しているからだと思う。
共産党がキリスト教徒を投獄しても、刑務所の中に教会ができる。私と妻も1996年に刑務所に入れられたが、そこで目の当たりにしたのは目覚ましいリバイバル(宗教復興)だった。
アジアの自由擁護へ日本は中国と対峙を
――あなたが米亡命後に設立した「対華援助協会」は、中国で弾圧を受けるキリスト教徒にどのような支援活動を行っているのか。
われわれは声なき兄弟姉妹の声を代弁し続け、彼らが生死の危機に直面した時は救出活動を行っている。
最近の例では、韓国とタイで3年以上逃亡生活を続け、「メイフラワー教会」と呼ばれて注目を集めた深●(「土へん」に「川」)改革宗聖道教会の牧師と信徒63人を、米国務省など国際的な協力を得て米国に迎えることができた。彼らは現在、テキサス州で信仰を実践しながら平和に暮らしている。
――このような活動に対し、中国政府からの圧力はあるか。
中国政府の弾圧は国境を越えて起きている。2020年にテキサス州西部にある私の自宅が3カ月間にわたり、中国共産党に送り込まれた暴徒に包囲された。最大100人のマスクを着けた連中が午前9時から午後4時まで毎日、家の前で座り込み、拡声器で「ボブ・フーを抹殺せよ」などと叫んだ。身の危険が明らかだったため、私と家族は連邦捜査局(FBI)と地元警察に守られて裏口から脱出した。米国でも“亡命”を強いられたのだ。
近年は殺害予告を受けている。また、私の名前でワシントンやニューヨーク、ロサンゼルスの高級ホテルを勝手に予約し、警察に「ボブ・フーがホテルを爆破しようとしている」と通報するという悪質な嫌がらせも受けている。
――台湾が中国に併合された場合、どのような弾圧が起きるか。
台湾が中国共産党に侵略・占領された場合、最初に虐殺されるのは、数十万人いる台湾長老派教会の信徒たちだろう。彼らは中国から分離独立派勢力として最も激しい攻撃の標的になっているからだ。
――アジアの信教の自由を守る上で日本の役割をどう見る。
昨年、迫害を受ける中国人弁護士を東南アジア経由で米国に逃れさせようとしたが、ラオスで拘束され、中国に連れ戻された。日本政府に助けを求めて介入を依頼したものの、支援は得られなかった。
日本は民主主義国家として、普遍的な原則を守る方針を明確にすべきだと感じる。中国共産党に「これは許されない」と言う勇気を持つべきだ。
その意味で、私は故安倍晋三元首相を高く評価している。安倍氏は真実を語ることを恐れず、声を大にして台湾を支持していたからだ。私の親しい友人である台湾の頼清徳総統も安倍氏を評価している。
――米国でも中絶に反対するキリスト教徒が逮捕されるなど、リベラルな価値観の影響でキリスト教に敵対的な社会風潮が広がっている。
その通りだ。中絶反対派は国内テロリストとみなされている。悲しいことだが、迫害は必ずしも権威主義体制だけと結び付くものではない。民主主義社会であっても、ヘイトスピーチやDEI(多様性・公平性・包括性)、新型コロナウイルス対策などの名の下で、キリスト教徒は迫害されるのだ。残念なことに、バイデン政権は極左マルクス主義のアジェンダに乗っ取られてしまった。
マルクス主義は「ポリティカル・コレクトネス」や「ウォーク文化」の形で米国に浸透している。もしこれが極端になれば、新たな形の迫害になるだろう。
フィンランドでは、国会議員が同性愛問題について聖書に基づく信念を語っただけで訴えられ、裁判にかけられている。言論の自由は一体どこにあるのか。
信じられないことが起きている。われわれが闘わなければ、自由は徐々に侵食されていくだろう。